絵画の世界にいる人であれば「ぼかし」という言葉を聞いたこと、ありませんか?
絵の技法のひとつで、絵の具や墨などを、フワーッと霧状にして吹きかけること。
便利な道具としては、「エアブラシ」がイメージできますよね。
この技術は簡単で、かつ効果的な演出をしてくれるので、私は水墨画でも取り入れています。
私が普段使用するのは、エアブラシほど大がかりなものではなくて、小さな専用の筆とアミを使って手動で行います。
レッスンでもよく使うのですが、きれいに「ぼかし」ができずに悪戦苦闘する人も案外多いのですよ。
今回はこの「ぼかし」について、上手に仕上げるコツを解説していきたいと思います。
ボカシが上手く使えるようになれば、絵がグッと華やかになったり、良いアクセントとして完成度をアップさせることもできるので、オススメです。
使う材料と、手順を紹介しますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね!
水墨画で「ぼかし」は使う?
とはいうものの、水墨画の描き方の本などを見ても、このエアブラシタイプの「ぼかし」を紹介しているのはあまり見かけません。
吹きつけてぼかす作業から、「ぼかし」と呼んでいるのですが、古来からの難しい名前がついている水墨画の技法とは少し趣が違うようですね。
同じく吹き付けるやり方で、古くは「吹墨」という技法がありますが、それの進化版といったところです。
(元祖「吹墨」法は、口の中に墨を含んで、ブワーッと紙に吹き付ける方法だったそうで、おそらく現代で同じ方法を使うことはまずないかと思います。)
こちらで技法をいろいろ紹介しています!↓
そもそも水墨画でいう「ぼかし」とは?
水墨画で言われる「ぼかし」はどんなものですか?
普通の筆を使う「ぼかし」ですね。
水墨画でも「〜ぼかし」という言葉はあるのです。
しかしそれらは、一般的な筆で墨と水を含ませて描く技法のことを指します。
私が紹介する「ぼかし」は専用の道具を使います。
広い面を一気に吹きつけたい場合は、エアブラシを使うと便利ですが、普段のレッスンで使用するのでそんな大掛かりなものではありません。
ぼかし専用の筆、そしてアミを使って簡単に行えます。
「ぼかし」を使って怒られた?!
実は、水墨画を始めてすぐの頃、私は水墨画の塾に通っていたのですが、そこで先生に怒られたことがあります。
ある時、雪舟にちなんだ葉書絵展が開催されて、生徒みんなが小さな作品を出品することになりました。
そこで、私は墨で恐竜を描いたのですが、最後の仕上げとして「ぼかし」を使って絵にアクセントをつけました。(恐竜のどこが雪舟にちなんでいるのでしょうか)
ところがその作品を見た先生が
「これはダメです、こんな簡単な方法を使ってはいけませんよ」
とおっしゃったのです。
ショック!
怒られたのではなく、いわゆる「ダメ出し」だったのですが、なんでダメなんだろう・・・・・とガックリ。
これがその恐竜です!
マスキング(型取り)をしてボカしています。
出品作品はその後描き直し、
(何にしたのかは忘れてしまいました。)
それ以来、このやり方での「ぼかし」は封印しました。
(先生の教室内でのみですが!)
「ぼかし」は便利で好きな技法のひとつなので、それからも上手になりたくて独自で練習を重ねました。
今では立派なボカシャーになれたので、満足しています。
水墨画で使う「ぼかし」の道具と準備
先生のところではNGだったけれど、「ぼかし」はとても便利で、作品に対する演出効果が高いもの。
制約やこだわりがない限りは、おすすめしたい方法です。
では次に、「ぼかし」にはどんな道具を使うのか、そして手順を紹介します。
「ぼかし」に必要な道具
・ぼかしブラシ
(ぼかし刷毛、ぼかし筆という明記の場合もあります)
ブラシのサイズはいろいろありますが、普段使いであれば5号〜7号くらいが良いかと思います。
使い慣れてくると、本数を増やすのが理想です。
施すボカシの状況によってサイズを変えたり、絵の具ごとに色を使い分けるようにすると、より良いです。
・ぼかしアミ
プラスチック製とステンレス製があります。
どちらでもかまいません。
これらを使ってぼかします。
①「刷り込みブラシ」と間違えないで。
よく似た商品で、「刷り込みブラシ」というものがあります。
一見同じように見えるのですが、使われている毛の種類が違います。
ボカシブラシは鹿毛(固い)で、刷り込みブラシは馬毛(柔らかい)です。
毛の柔らかい刷り込みブラシでもできないことはありませんが、固い毛の方が圧倒的に使いやすいですよ!
②歯ブラシは獣毛に比べると固すぎて密度も粗いので、おすすめできません。
「ぼかし」をするときの準備
1.エアコンのスイッチを切っておく
「ぼかし」は墨をミスト状にするので、少しの風でもふわ〜っと周りに飛んでいきやすいです。
また、大量に「ぼかし」をする場合は、吸い込まないようにマスクを着用した方が良いですね。
2.絵の下に新聞紙を広げて敷く
↑と同じで、飛んで机などを汚さないように。
3.墨や絵の具を、とき皿に用意する
たくさん「ぼかし」をする場合も、最初から皿に大量に入れすぎないように。
たくさん入れると、その分たくさんブラシに取ることになるので。(とりすぎはNG)
「ぼかし」のポイントは、水分量です。
とき皿の中に墨や絵の具を取るとき、水でシャバシャバなのは絶対ダメです。
皿を傾けると、ゆっくりたらりと垂れるくらいの濃度で。
慣れてくると、ややゆるめのテクスチャーの方がやりやすいのですが、初心者の場合は、ドバッとブラシに水分を取りすぎると、失敗の元となりますので、気をつけてください。
4.練習紙を横においておく
まず最初に練習紙に試して、コンディションを確かめながら進めてください。
5.広い範囲の場合は立った状態でも良いが、座った方が安定する
前屈みになることもあるので、無理な姿勢で腰を痛めないように注意してくださいね。
水墨画のボカシの手順
1.皿から墨や絵の具をブラシで舐めるように取る
・ブラシは最初乾いた状態で始める(水で濡らさない!)
・最初から墨や絵の具をつけすぎない。
・はじめは出にくいかもしれませんが、慌てて大量に取りすぎない。
2.練習紙に試す
新聞紙でも良いですが、白い紙の方がパッと確認しやすいです。
3.アミは低めにかまえる
アミの位置が紙から遠いと、その間でふわ〜っと飛び散ってしまいます。
4.アミを細かく移動させながらボカす
アミが低いので、その分紙の上にダイレクトに落ちやすくなりますので、移動させないと一箇所が濃くなってしまいます。
5.まず広い範囲を軽く、そして濃くしたい部分を何度かボカす
ガーっと集中的にならないよう、サーっと軽くボカします。
濃くしたいところを重ねてボカすと、濃淡が表現できます。
ボカシがうまくいかない場合の原因〜例をあげて説明〜
うまくいかない(落ちない)場合の例①
【原因】
①皿に作った墨の水分が多い(シャバシャバ)
②逆に墨がかたすぎで、水分が足りない(カサカサ)
③ブラシが古い(毛が短くなると落ちにくくなる)
↓
【対処法】
①ブラシとアミをいったんタオルでよく拭いて、しっかりと水分を取る
とき皿のシャバシャバの墨もある程度、量を減らす
②墨を足して適度なやわらかさにする
③新しいブラシを買いましょう!
うまくいかない(落ちない)場合の例②
【原因】
①皿に作った墨の水分が多い(シャバシャバ)
②アミの上でブラシを強くこすり過ぎている
↓
【対処法】
①ブラシとアミをいったんタオルでよく拭いて、しっかりと水分を取る
とき皿のシャバシャバの墨もある程度、量を減らす
②力を抜いてブラシをはじくように軽く動かす
注意点
「とにかく軽く。力任せにしない」
落ちにくい時ついゴシゴシとアミに強く押し付けてしまう人がいますが、実は逆効果でますます落ちにくくなります。
「アミの上にたまってきたら、いったんブラシとアミをタオルで拭いて、水分をしっかり取る」
ぼかしを続けていくうちに、ブラシに少しずつ水分がたまっていきます。
落ちにくい、と感じたらブラシをまず確認!
・ブラシはアミで軽く弾くように動かす
・アミをこまめに動かす
・時々ブラシを止めて状態を確認する
・墨や絵の具は少量ずつ取って少しずつボカす
「ぼかし」は、強くすればするほど落ちにくくなります。
ポイントは優しく軽く、少しずつ。
慌てず丁寧に作業をすれば、大丈夫です!
まとめ
水墨画にもいろいろある
ここでボカシから少し脱線します。
私がかつて「ぼかし」について先生に注意を受けたお話について。
その時は、「なぜだろう?」と不思議に思いました。
なぜなら、私のもう1人の先生(私の母です)の方は、絵にボカシを積極的に取り入れていたから。
普段それらの絵を見ていた私は、ごく自然に恐竜の絵にも「ぼかし」をしたのですね。
しかし、これは不思議なことではないのです。
なぜなら、水墨画という同じジャンル同士でも、2人の師匠の絵のスタイルは全く違うからなのです。
・墨オンリーの師匠は、古来からの水墨画の道を探求して、あれこれ描かずテーマも絞って、自分の世界を作り上げるタイプ。
・墨+色彩の師匠は、西洋の絵画や書道も学んだ経験も生かし、水墨画だけにこだわらず新しいことを色々取り入れながら、自分の世界を作り上げるタイプ。
同じジャンルでもそんなに違いがあるんだね!
絵の世界に入ってみて、いろいろとわかったことがあります。
絵画のジャンルが違えば、使う道具や描き方は全く違うものになります。
私の師匠たちのように、同じ水墨画の世界でも、墨だけ使う人と墨と絵の具を使う人に分かれます。
描くテーマも人によって全然違う。
どれが正しくて、どれが間違い、という話ではありません。
絵の世界は本来自由なのです。
それが面白く、その人の個性が現れて興味深いところなのですね。
それぞれの師匠からそれぞれ違う学びを得た私の中には、2種類の違ったスタイルの技法が混在していて、そのことをとても誇らしく思っています。
そして、その上で私のオリジナリティを生み出していければ、と考えているのです。
あなたはどんな絵を描きたいですか?↓
水墨画に生かそう!ぼかしのまとめ
・専用のぼかしブラシとアミを使う
・水分量も力加減も控えめに
・ブラシは数本持っているのがベスト
・使った後は、きれいに洗う
「ぼかし」のポイントをお伝えしましたが、いかがでしたか?
「ぼかし」は慣れるまで少々コツがいりますが、技法のひとつです。
要領がわかればとても簡単です。
簡単で、その上高い演出効果があるので、ぜひ試して頂けたらと思います。
絵の世界が広がり、クオリティが上がること間違いなしですよ!
それでは、また。
こんにちは。
墨絵師のべべロッカです。