犬、お好きですか?
!♡♪
「芦雪犬」という言葉を聞いたことがありますか?
この芦雪というのは、ズバリ、画家長沢芦雪のことなんです。
水墨画で描かれた有名作品の中には、可愛い犬の絵がたくさんあります。
その中には、人気でグッズになっちゃった犬もいますよ!
「芦雪犬」もそのひとつ。
今回は、江戸時代の有名画家5人をピックアップし、それぞれ個性あふれる「犬の絵」を7点紹介したいと思います。
あなたの「これ、知ってる!」というワンコにも出会えるかもしれません。
また、それぞれ犬グッズも紹介しますね!
一緒に見ていきましょう!
目次
円山応挙の犬
円山派という系統を確立し、その確かな絵の技術に憧れる弟子をたくさん育てた円山応挙。
最も有名な弟子として、長沢芦雪が挙げられます。
応挙と芦雪は比較されることも多く、師匠と弟子なのに全く対照的な絵を描いたことでも有名。
応挙=天才
芦雪=奇才
などと称されることもあります。
いずれにしても、多くの人を惹きつける魅力のある絵を描いた応挙。
そんな応挙が描いた犬とはどんなものだったのでしょう?
円山応挙の描いた有名な犬はこちら
応挙は、多くの子犬の絵を残していると言われています。
江戸時代、それだけ子犬の作品が人気であった、ということなのでしょうね。
応挙は「写生第一」をモットーに、花鳥や風景、人物など様々なテーマを描きました。
写生することで観察眼が養われ、対象物を写実的にとらえる訓練にもなるため、応挙の絵の技術はとても高く、何でも完璧に描ける腕前は誰もが認めるものでした。
けれど、この子犬たちを見ると、リアルさというよりも愛らしさでいっぱい。
ダンゴになって眠っている子犬たちには、応挙の愛情が感じられます。
30匹以上もの子犬を描いたと言われる応挙は間違いなく犬好きですよね!
すやすや・・・可愛いですねえ。
自分の経験談で言うと・・・眠っている動物の絵を描く人は間違いなくその動物が好きです。
なぜなら、無防備な動物の様子ほど愛らしいものはないからです!
さて、もう1枚。
これは切手。
可愛すぎて切手になっちゃいました!
丁寧に描かれた朝顔が応挙らしいですね。
あれ?でも木目が見えるこちらの作品、木に描いてる??
これの元の絵は・・・・
爽やかな朝顔と、じゃれあう子犬たちがとってもキュートなこの作品。
こちらは東京国立博物館内「応挙館」の廊下を仕切る杉戸絵だそうです。
こんな可愛い絵が描かれた扉があるなんて、とっても贅沢ですよね〜。
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円山応挙の略歴
円山応挙(1733ー1795)。
江戸時代中期ー後期の絵師。
丹波国(京都府亀岡市)の農家の生まれ。
京都で中国画・西洋画などを学び、特に「写生」を重んじ技法を磨いた。
花鳥風月、どんなテーマでも完璧に描く技術を持っている天才と称される。
また、「足のない幽霊」を最初に描いた画家である、という説も。
「円山派」の祖であり、京都画壇で多くの弟子を育て活躍した。
長沢芦雪の犬
芦雪犬でおなじみ、その作者、長沢芦雪です。
最初に登場した円山応挙の弟子の中でも最も優れていたと言われています。
芦雪も動物が好きだったようで、多くの動物の作品を描いています。
犬の作品もたくさんありますよ!
長沢芦雪の描いた有名な犬の絵はこちら
この屏風は左がわの絵で、右側は白象とカラスが描かれています。
黒い牛と、白い犬との対比をご覧ください。
牛が大きすぎるのか、犬が小さすぎるのか、サイズ感がマヒしそうな芦雪ワールド炸裂のユニークな作品です。
牛さんもすごい迫力ですが、注目は、この白いワンコ!
ジャーン!
これが、「芦雪犬」です!
テレン、とした脱力感のなんとも言えぬ味わいと可愛さ。
このワンコが犬好きの方のハートをわしづかみにして、親しみを込めて「芦雪犬」と呼ばれるようになり、一躍有名に。
犬を飼っている方にはメチャ共感できるこの「犬の横座りスタイル」は、江戸時代も現代も変わらないことが、応挙や芦雪の絵によって証明されましたね。
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まず目がいくのが、こちらを向いていてる白い犬の表情。
少し首をかしげるようにして、微笑んでいるようにも見えます。
そして、左足をちょこんと前に出している様子。
その向かいにいる白と黒の背中を向けた犬。
(背中を向けた白黒の犬は、芦雪の作品に度々登場します)
この子の表情は分かりませんが、右足を横に出して横座り。
2匹ともとても可愛らしくて、リラックスしている様子が感じられますね。
絵には画家の心情がそのまま表れます。
イライラしたり悲しんでいたりとネガティブな気持ちでいると、きっと犬の顔もけわしくなってしまうはず。
白い犬の頬のあたり、薄墨をサッと引いています。
真っ白ではなくて少し濃淡をつけることで、犬の表情もさらに豊かになりますね。
この作品では、この絵を描いたときの長沢芦雪のゆったりとした感覚まで伝わってくるようで、とても好きな作品です。
犬好きな方なら、ギュッと抱きしめたい気持ちになるような愛らしさですよね。
構図は背景に何も描かず、墨を片ぼかしで取り、ポワンと白い空間を残したデザイン性も、芦雪っぽいセンスが感じられます!
対象物の境界を線で描くのではなく、筆の面を使って塗ります。
そうやって反対側を白く残すことで、ものの立体を表現する方法。
↓こちらは片ぼかし法を使った富士山の描き方の解説です。
長沢芦雪の略歴
長沢芦雪(1754ー1799)。
江戸時代の絵師。
京都の武士の家に生まれた。
円山応挙の高弟としても有名。
師である応挙の作風とは対照的で、大胆で奔放、個性的な独自の作風を確立させた。
江戸時代の「奇想絵師」3人のうちの1人とされている。
(他の2人は、伊藤若冲・曾我蕭白)
伊藤若冲の犬
伊藤若冲といえば、絵にあまり興味のない方でも聞いたことのある名前かもしれませんね。
明治維新の頃、海外の富豪によって日本の多くの絵画が買い占められ、その中に若冲の絵もたくさんありました。
まず海外で人気が出て、逆輸入というかたちで日本でブームになって以来、不動の人気を誇る日本の代表的画家となったのです。
そんな若冲の描いた犬とはどんなものでしょう?
伊藤若冲の描いた有名な犬の絵はこちら
芦雪犬とガラリと雰囲気が変わって、こちらは伊藤若冲によって描かれたワンコたち。
百犬となっていますが、実際に数えると絵の中には60匹の犬がいるようです。
脱力系のワンコと違ってようく見ると、キリッとした目力の強い若冲犬たちは、体の模様は違っても兄弟なのかな?!と思うくらい顔がよく似ていますよね。
水墨画作品と違って、着色の作品になるとグッと細かく完璧に描き切るスタイルの若冲、犬の模様もバラエティ豊かで、配色のセンス、バランスはさすが!
ポーズも様々で見応えがあります。
強い眼差しを持った犬たち、なんとなく威厳があって、私には神様の使いのようにも見えてきました。
たくさんの生き物を画面の中に描く若冲の群集系作品は、じっくり見ていたい、飽きない魅力が満載ですね。
↓伊藤若冲の作品と生涯についての詳細はこちら!
若冲曰く、
「生き物を観察し尽くした時に、その生き物が持つ「神気」が見える。
そうなると、その生き物はどのようにでも描けるようになるー」
この犬たちを描いた時の若冲はなんと、83歳。
「絵を描くこと」はとてつもなく体力・気力を使います。
丁寧に描き分けられた体の模様、じゃれ合う子犬ならではのキュートな仕草など、イキイキとしたワンコたちには若冲の生命力が感じられます。
まさに「神気」によって、描かれたものと言えるのかもしれませんね!
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伊藤若冲の略歴
伊藤若冲(1716ー1800)。
江戸時代中期の絵師。
京都の錦市場のある青物問屋「桝屋」の長男として生まれる。
晩年の京都の大火事で一切を失うまでは、生涯生活に困らず独学で好きな絵を自由に描いた。
動物(鶏が有名)・植物の非常に緻密な絵が特徴。
財力があり良い画材を使用しているため、着彩作品は今も鮮やかな状態で保存されている。
俵屋宗達の犬
上図は犬とは関係ありませんが・・・・俵屋宗達って誰?となった方に、きっとこちらの絵を見れば、「これなら知ってる、見たことある!」となるはずなので・・・。
キラキラ画風の「琳派」の祖とも言われる宗達。
活躍したのは江戸時代の京都、本阿弥光悦という現代で言うアートディレクター的存在の人物に見出され、2人でコンビを組んで作品を作り、大人気となりました。
その宗達の犬の絵とはどんなものでしょう?
俵屋宗達の描いた有名な犬の絵はこちら
水墨画で「たらしこみ」の説明がある時に、必ず登場するのが俵屋宗達。
そしてこの「子犬図」です。
「たらしこみ」とは、水墨画の技法のひとつ。
水を吸わない紙を使用して、まず薄い墨で描き、その上に濃い墨を重ねます。
墨は紙に吸収されずに紙の上でたまったようにとどまるため、あとから置いた濃い墨が模様のように動き、乾いていく過程で面白い模様になります。
たらしこみが、子犬の体に不思議な立体感を与えていますね。
↓水墨画のいろんな技法についてこちらで解説しています!
とてもシンプルな水墨画作品です。
よく見ると、黒い犬は「没骨法」という、線ではなく筆の面を使って塗りながら形を取る技法で描かれています。
ただ、黒い面を全部塗りつぶすと、平面的でわかりづらくなるため、境界線を白く残すことで、白い線で描いたような表現を使っていますね。
さりげなく描かれたようで、実は計算と工夫がされています。
また、ほのぼのとした犬の様子も可愛らしいのですが、宗達っぽさが出ているのはそこだけではありません。
ワンコだけではなく↓絵全体を見てみてください。
犬の下には、花が描かれていますよね。
花は描き込まず薄墨で少しだけ。
そして犬の背景は余白のみで、何も描かれていません。
白い余白部分の方が多いくらいですが、黒い犬によって画面がピリッとしまってアクセントになっていますね。
この花のデザイン性、大胆な余白の取り方など「構図のセンス」こそが、俵屋宗達の魅力!
足さず、引かず、の絶妙なところが素敵。
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俵屋宗達の略歴
俵屋宗達(生没年不明・桃山時代)。
江戸時代初期の絵師。
生没年・出身他不明なことが多い。
京都の文化人・公家・町人などに支えられて町絵師から大出世した。
本阿弥光悦とのコラボによって人気が出て、作品も多く残した。
「琳派」の基礎を確立したとも言われている。
仙厓義梵の犬
なんで読むんだろう?不思議な名前だなあと思ったあなた、その通り。
仙厓義梵はお坊さんです。
禅僧ですね。
水墨画業界(?!)ではかなり有名な方。
ギボンさん・・・?・・ああ、あの絵ね!
とピンとくる、非常にユニークな作品やエピソードを残されたお坊さんです。
そんな義梵の描いた犬作品とはどんなものなのでしょう?
仙厓義梵の描いた有名な犬の絵はこちら
犬、犬、犬、といろんな画家によるワンコ作品を見て、最後に
ズコッ!
ときましたね。
これぞ、ザ・禅画!
仙厓義梵の犬です。
棒につながれた様子のようですが、ひとつ突っ込みたいのは、ヒモがお腹にくくられているところですね。
通常、首につなげるので、そこ?!と思ってしまいますが、この時代に「首輪」というものがあったのかどうかが謎だし、飼っていたとしても、放し飼いだったのではないかなと想像します。
ただ、禅画としてとらえた時に、きっと深い意味が隠されているのだろうな、と思いました。
今回は犬特集なので犬作品ばかりを紹介していますが、他にも仙厓義梵の作品はユニークで楽しい絵がたくさん。
味わいのあるギボン作品じっと見ていると、ムラムラと仙厓義梵の記事を書きたくなってきました。
禅画と水墨画は密接な関係にありますので、さもありなん。
「狗子」とは子犬のことです。
1枚目の絵と同じく、棒につながれた犬の様子。
左の文字は、「きゃんきゃん」となっているので、犬の鳴き声を表しているようですね。
こちらも墨のみでサッと描かれたワンコの図。
若冲のきっちり描かれた犬とはまた違う魅力のギボン犬。
絵を見る私たちも脱力して楽しめ、多くの人に愛されているのも分かりますね!
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仙厓義梵の略歴
仙厓義梵(1750ー1837)。
江戸時代後期の禅僧(臨済宗古月派)・画家。
美濃国(現在の岐阜県)に生まれた。
11歳で得度し「義梵」と名付けられ、修行・諸国を行脚したのち、40歳で福岡市の聖福寺の住職となった。
禅画ならではと言えるユーモアあふれる書画を描き、禅の教えを広める。
73歳で「厓画無法」という主義を掲げた。
義梵の絵は非常に人気が高く、依頼が絶えることがなく、亡くなるまで絵を描き続けたという。
「世の中の絵には法があるが、自分の絵には法がない」
という意味。
この場合の法というのは、ルールとか決まり、というような意味でしょうね。
自由奔放、ユーモアにあふれ、デフォルメされた漫画チックな義梵の作品は、唯一無二のオリジナリティ。
江戸時代から現代でも、不動の「ゆるかわ脱力系」として私たちをほっこり癒してくれるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
水墨画の犬、というとちょっと怖いようなクールな感じの犬かなあ・・・墨だけだし・・と思った方もおられるかも。
ところが!良い意味で想像を裏切ってくれる作品の数々。
昔も今も、あどけなく、人間の暮らしに溶け込んで私たちの心を和ませてくれる存在の犬。
その犬のイメージそのままの愛らしさが絵に現れていたように思えます。
そして、画家たちはきっと皆ワンコが好きだったんだろうなあとしみじみ感じました。
エライお殿様の依頼、などでない限り、やはり好きなものでなければなかなか絵のテーマにはできません。
犬の可愛らしさを最大限に引き出して作品にした、画家たちの技術と愛情が絵からあふれていて、動物好きの私も大満足です。
犬派の方も猫派の方も楽しんでいただけたら、幸いです。
それでは、また!
こんにちは。
墨絵師のベベ・ロッカです。