水墨画のための4つの基本道具
筆・墨・硯・紙のことを
「文房四宝」と言います。
名前を見ると難しそうに思えますね。
基本となる道具という意味なので
すぐなじめると思います。
今回はこれらの道具について
解説します。
・水墨画を始めたばかりの人
・これから水墨画をやってみたい人
・水墨画の知識がない人
など初心者の方に向けての内容です。
参考になれば嬉しいです。
下記の記事なども併せてチェックして
みてくださいね。
重複する部分がありますが、
何度も目にすることによって
少しずつ慣れて自然に覚えてゆくことが
できると思います。
「文房四宝」についての詳しい記事はこちら↓
目次
水墨画を描くために必要な基本道具『文房四宝』
ここでは実際に私が使っている
4つの基本道具を
順番に紹介していきたいと思います。
道具は
正しい使い方をしてあげないと
うまく効果を発揮してくれない、
ということもあるので、
気をつけていきたいところです。
間違った使い方の例もあげていますので
ぜひ参考にしてみて下さい。
【水墨画道具:文房四宝】『筆』の正しい使い方と注意点
【水墨画道具:筆】使いやすいサイズ
普段使いの筆は
小〜中サイズくらいのものが
使いやすいです。
書道用の筆は毛量が多く、穂先も長いものが
ありますが、あまり大きいとバランスが
取りづらいため描きにくいと感じます。
ですので、最初は小サイズの筆で十分。
慣れてから使い分けるといいですね。
※面相筆になると細すぎるので描きづらいです。
刷毛(はけ:左側3本)や連筆(れんぴつ:右側3本)
などは、大きな作品を描くときに活躍します。
連筆は、複数の筆を横並びにくっつけた
ユニークで興味をそそられる形の筆です。
真ん中の筆はデザイン筆といって
厳密には水墨画用ではありませんが
工夫次第で面白い描き方ができる
場合もあります。
これらの筆はいわば特殊部隊ともいえます。
普段ごく普通に「花を描こうかな〜」
という際に
彼らが出動することはありません。
では、普段使いの(小〜中サイズくらい)の筆とは
どのようなものでしょう?
↑このくらいのサイズの筆をよく使います。
特に愛用している筆は左側の赤い筆です♪
【水墨画道具:筆】愛用しているイタチ筆とは?
イタチ毛100%の筆で、
筆屋さんに作ってもらっている
オーダーメイドです。
私の例で言えば、
広い面などを描く場合は別として、
ほぼこれ1本で何でも描いてしまえる
優れものです。
あまりに描きやすいので、こればっかり
使ってしまって、すぐに穂先がなくなって
新しい筆を下ろす・・・
という具合です。
筆って穂先がなくなってくると使えなくなるのですか?
そんなことはないですよ!
穂先がある新しい筆は細い線を描くのに便利です。
穂先がなくなっても十分使えるので、新旧使い分けるといいですね。
これで細い線も描けるの?と思われそうですが
イタチ毛はコシと弾力が素晴らしく、
どっしりと根元で支えてくれるので
線描きもバッチリなのですよ!
羊毛がおっとりと優しい感じだとすれば
イタチ毛はシャープで勘の良い筆
という印象です。
↑初心者の方によくおすすめする「長流」という筆です。
オールマイティに描けます。
【水墨画道具:筆】使ってみてしっくりくるものがベスト
自分に合った使いやすい筆は
一生もののパートナーになり得ます。
これだ、というものに出会ったら
大切にうまく付き合っていくと良いと
思います。
ただ、本当は
・線を描く場合
・彩色する場合
・太い木の幹などを描く場合
など、細かく分けて使い分ける方が
筆にとってはいいと思います。
そのほうが
筆がそれぞれの役割を全うできるし
より長持ちさせることができるからです。
特に、墨を描く用と彩色する用の筆は
分けて使うことをおすすめします。
【水墨画道具:筆】扱い方の注意点
墨にも顔彩にも膠が入っていますが
墨の膠は特に強く、筆に残りやすいので
きれいに洗って清潔に保っておかないと
消耗が激しくなってしまいます。
*膠・・・動物の骨や皮から作られる、接着剤の役割をする成分
筆を筆巻きに入れっぱなしにしてたら、寝グセがついちゃったよ
毛は痛みやすいので、使ったあとはきれいに洗って、よく乾かして下さいね
洗う時は、水洗いでお願いします。
ため水も使って、シャバシャバとすすぎます。
水につけっぱなしは、毛を痛めますので
長時間はやめておいた方がよいです。
また、
根元に墨や顔彩が残りがちですが
洗剤は使ってはいけません。
ナイロン毛とは違う繊細な獣毛の筆は
そこが注意の必要なところですね。
【水墨画道具:文房四宝】『墨』の正しい使い方と注意点
墨も色々ありますね。
墨は大きく分けて
茶墨(ちゃぼく)と青墨(せいぼく)があります。
茶墨はつやがあり、温かみが感じられ、
青墨はすっきりとさわやかな印象です。
墨は、1つ買えばかなり長持ちします。
大根をおろす時のようにだんだん小さくなって
持ちにくくてすりづらい場合は、
「墨ばさみ」という便利グッズもありますよ!
画像の墨は数千円くらいのものから数万円〜と
高価なものもありますが、
書道用の墨があればそれから使ってみるのも
OKですね。
【水墨画道具:墨】墨をする〜非日常感も味わえる特別な時間
水墨画に限らず、「絵を描く」って
子供の頃のお絵かきと違って
大人の場合、非日常な感覚を味わえる
という楽しみもあります。
特に、水墨画の非日常感は高め。
1人1台スマートフォンを持つ時代。
字を書くこと自体少なくなった
デジタルライフな昨今です。
まず、墨をするということ自体が
現代ではかなり特別な行為です。
ペンや鉛筆はさることながら
「墨をする」
なんて、究極のアナログ体験です。
ときめきませんか?
日本の文化に触れているって感じがします。
普段使わない道具ってとこが、良いよね!(→形から入るタイプ)
私も今だにときめきます!(→形から入るタイプ)
考え方ひとつで世界は変わります。
これはもはやめんどくさいとか
堅苦しいことは抜きに、
「非日常体験」
として丸ごと楽しんだもの勝ち、
かもしれませんね。
【水墨画道具:墨】香りに癒される
それと案外忘れがちですが
墨は「アロマ効果」も高いです。
なんともいえない墨の芳醇な香り、
心がすうっと落ち着くのです。
学生の頃、家に帰るといつも墨の良い香りがしていましたね〜(母:水墨画家)
あの墨の香りの正体は、香料なのです。
墨に入っている膠の匂い
(動物性で少しくせがありますね)
を消すために入れられているのですね。
墨によって微妙に違い、
香りがほとんど感じられないものも
中にはあります。
絵を描く前に道具の準備をして
墨をすっているとき。
その香りが水と共に溶け出し
ふわあ〜っと私を包みこむと
絵の世界に自然と入っていけるような
気がして、好きなんです。
【水墨画道具:墨】保管方法の注意点
↓こちらのかわいそうな姿をご覧ください。
この墨達はおそらく湿気に晒され、
ちゃんと保管されないままの状態で
ほったらかされたの結果
割れてしまったのだと思います。
水分を吸った固形墨は膨らみ、
乾燥すると縮む性質があります。
それを繰り返していくと
ヒビが入り割れることがあるそうです。
すった後の墨は、濡れた部分を
和紙や布などで拭いて水分を取っておきます。
そして桐箱に入れて保管するのがベスト。
割れた墨は捨てるのではなく
ボンドなどでくっつけても良いそうです!
墨専用のボンドもあるとか。
直せるならば直して
長く使ってあげたいです。
「病み上がり女がゆるゆると」
=墨をする時は、力まず
弱い力でゆるゆるとするべし。
覚えやすい言い回しとして
かつてこのように教わったことを
覚えています。
(フレーズは少し違っていたかも)
そして最初に水をドバッと入れないで!
ついつい多めに入れてしまって
墨をするのに時間がかかり
十分すれていない状態の薄い墨を
使いがち、というパターンの人を
よく見かけます。
つい水ドバやっちゃうな〜、いっぱいすらなきゃ!って思っちゃって・・・
水は少しずつ入れてすった方が、良いですよ!
墨は常にしっかりと濃くすることが大切。
薄墨を使いたい場合は
濃くすった墨を薄めます。
濃く、といっても力任せではなく
ゆるゆると。
少量の水で少しずつする方が
早くすれて効率も良いですよ!
【水墨画道具:文房四宝】『硯』の正しい使い方と注意点
こちらは学童の書道でよく使われる硯のサイズ。
五三寸(150×90mm)
です。
(左側がよく見かける形ですね)
2つを比べると
左より右の硯の方がなんとなく良いものに
感じられませんか?
その理由は、
フォルムだと思います。
ま四角な左の硯はいかにも
学校の書道用です、という感じ。
右の硯は柔らかなカーブが特徴的です。
内側に注目してみました。
左はカクッと直角ですが、
右は内側もカーブしています。
左側は直角で洗いにくそうですが
右側はなめらかなのできれいに
保てています。
石そのものの価値の違いはもちろんのこと、
安価な硯と質の良い硯の違いは
この「フォルム」にも現れます。
(と思っています)
と言って
彫刻など装飾が多いものは
高級感はあっても使用するには不向きです。
すっきりとしたデザインのものが
ベストです。
【水墨画道具:硯】正しいすり方
硯の平らな部分を「丘」、
くぼんだ部分を「海」といいます。
墨をする時は、丘のところですって
すれた墨を海へ流し入れます。
間違った使い方で
まず海に水をたくさん入れて、そこから水を丘に
持ってきて墨をする・・・
という形で墨をする人を見かけます。
水は、丘の上に少量垂らし、
少しずつすって下さい。
【水墨画道具:硯】決め手は鋒鋩(ほうぼう)
硯の良し悪しは
「鋒鋩」=硯の表面
(丘と呼ばれる、墨をする平らな部分)
で決まると言われます。
鋒鋩は
・ツルツルすぎてもいけない
・ザラザラすぎてもいけない
・子供の肌のようになめらかでしっとりと吸い付くような感じがベスト
らしいです。
え〜触ってみても全然わからない!
硯のプロは、違いがわかるみたいですよ!
硯の丘を指で触れてみて
「これだ!」という判断は難しいですが
安いものと高価なものを比べてみると
不思議と違いがわかります。
すり心地が指に伝わる感覚も
大切です。
あと、音も聞いてみてください。
墨をすっている時の音が
しゅわぁり。。しゅわぁり。。
という吸い付くような
なめらかでクリーミーな音を発していると
心地よいな・・・と感じます。
(たぶん墨と硯の相性も良い)
一方、「シャーシャーシャー」
という表面を上滑りしているような
空回りっぽい音を聞くこともあります。
【水墨画道具:硯】とても奥深いもの
硯は本当に奥深いです。
野球でいうところの
キャッチャーのような存在に感じます。
水を受け止め、
墨を支え、
筆に返す。
しゅわぁり。。しゅわぁり。。
の音がするときは、
きっと最高のバッテリーであるに
違いありません。
硯は、なんかいいんですよね。
私もプロの方にお願いして
マイ硯を作ろうかなと思っています。
【水墨画道具:硯】扱い方の注意点
なお、「硯は洗ってはいけない」
という勘違いをしている人が
時々いらっしゃいます。
硯は洗っても大丈夫です!
むしろキレイに洗わないと
墨の膠が取れずに残って、
大変なことに・・・!
使用したあとは水洗いします。
手か柔らかい布などできれいに洗って
(洗剤やスポンジでゴシゴシ洗うのは
傷つけてしまうのでNGです)
乾燥させておいてくださいね。
【水墨画道具:文房四宝】『紙』の正しい使い方と注意点
【水墨画の道具:紙】サイズいろいろ
↑練習用によく使用する和紙です。
小さいサイズが色紙サイズの画仙紙(がせんし)。
大きい方が6号サイズの楮紙(ちょし)
です。
上は市販の色紙です。
練習用の作品を描くには簡単で手軽です。
文房具コーナーなどで見かける色紙は
ほとんどが画仙紙という種類の
和紙でできています。
真っ白な紙の色が特徴です。
いちばん左は、短冊。
重ねて置いてあるのは小さいサイズから
・姫色紙
・寸松庵
・4号サイズ
・一般的な色紙サイズ
です。
一方、右は本画仙という和紙で作られた
色紙です。
こちらはあまり見かけませんが、
とんでもなくにじみが早い
(つまり扱いが難しい)
のが特徴。
【水墨画道具:紙】色紙仕立てにする理由
↑こちらは、色紙仕立てにしていますが
紙の種類は楮紙を使っています。
紙屋さんに別注で作ってもらっているもので
このタイプの色紙は市販では売っていません。
和紙を色紙仕立てに作っているのには
理由があります。
というのは・・・
水墨画を描く和紙はいろんな種類がありますが、
基本的にどの紙も薄い1枚のつくりです。
絵は、和紙に描いて終了、
ではありません。
水墨画の場合、絵を描いた後には
「裏打ち」という処理が必要になります。
どんな素晴らしい絵が描き上がったとしても
ペラペラの紙のままでは頼りなく
裸同然、作品とは呼べません。
墨や水を吸った和紙は収縮するため
放っておくとシワシワになります。
そこで、
描いた紙の裏に水やノリを使って
別の和紙を貼り付けて
シワやたるみを伸ばし、補強します。
この作業を「裏打ち」と言います。
裏打ちをすることによって
和紙はピーンときれいに張りが出て
補強した紙のおかげで
白さが増し墨色がくっきり
美しくなります。
なのですが、
水墨画教室に通う生徒さんが
毎回出来上がった作品を裏打ちに出すには
時間と手間とお金がかかってしまいます。
裏打ちなんて、どこでやってもらったらいいの?
専門業者に依頼となると・・お高いのでは?(ドキドキ)
たしかに、ちょっぴり面倒ですよね。
それで
色紙を使うことになりました。
でも、市販の色紙だと、
・いかにも安価なものっぽい
・にじみやすくて初心者には使いづらい
ということがネックだったのです。
そこで、
あらかじめ楮紙(画仙紙に比べにじみが遅い)
を色紙仕立てに仕上げて、
秀作用として普段のレッスンで
使用することになりました。
ずっと使っていますが、
裏打ちをする手間がなく
描いてすぐに飾れる手軽さで
みんなに愛されています。
一方、特別レッスンなどで作品を描く場合は
さまざまなサイズの和紙を使うので
それぞれ裏打ちをしてもらっています。
裏打ち後に仕上がった作品をみると
気持ちもピンと張るような気がします。
【水墨画道具:紙】書道用の紙は使えるか?
時々、
「書道で使っていた半紙などを
使いたいけれど良いですか?」
と聞かれることがあります。
私は書道を習ったことがないので
書道で使う紙については
正直分かりません。
ですので、レッスンに通う生徒さんで
あれば、一度見せて頂くように
しています。
どんな紙か実際に確かめてから
使えそうあれば、「OKです」
とお答えします
いずれにしても練習用であれば、
試しがきに使用するのは全く
問題ないと思います。
私自身、葉っぱの運筆練習の時に
ものすごい枚数を使うので、
和紙がもったいないと思って
新聞紙などに描いていたくらいですので。
にじみやかすれを研究したい、とか
技法を使った練習をする場合は
描き味を確かめる必要があります。
なので、
どんな紙でもOKとはいきませんが、
とにかくひたすら線を描くとかであれば
書道用半紙でも大丈夫ですよ。
【水墨画道具】最後に〜文房四宝について〜
今回は私の使用している道具を
例に使い方などを紹介しました。
こうやって道具のひとつひとつについて
普段使っているものを
改めて観察して、意味を考えていくと
感慨深いものがありますよね。
文房四宝(筆・墨・硯・紙)をはじめとして
道具は全てとても大切です。
これら道具がなければ
絵を描くことができません。
頼りになる愛すべき相棒たちです!
水墨画を始めるあなたの
参考になればとても嬉しいです。
それでは、また。
こんにちは。
墨絵師のべべ・ロッカです。