水墨画の道具の中でも、「筆」って特別な感じがしませんか?
現代人が筆で描くのってカッコイイよね〜
ただ、水墨画を始めたばかりのころは、まずどれを選べばよいのかサッパリわからなーい!という方も多いのでは。
また、水墨画で使う筆は扱い方もすこし特殊な感じがします。
けれど、慣れていくとその素晴らしい可能性にビックリすることもたくさんあるんですよー。
水墨画らしい特徴である、濃淡をつけたり、花や風景など描くものによって技法や筆の種類をガラリと変えたりと、さまざまな描き方が楽しめるのも魅力!
・描くものに合わせた筆の種類
・自分に合った筆の選び方
・正しい筆の扱い方
などなどを知ることが上達への近道です!
初心者に向けて最初の一歩から解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
それでは、始めましょう!
目次
水墨画の筆について
まず、筆の形について見ていきたいと思います。
聞きなれない言葉が出てきますが、全部覚える必要はありません!
この呼び名は使う、という部分はポイントとしてあげていますので、参考にして見てくださいね。
筆の構造
筆の独特の呼び名としては、まず毛の部分ですが、ここを「毛」とは言いません。
「峰」または「穂」と呼びます。
私は「穂」と呼ぶ方がしっくりきます。
水墨画を始めたならば、せっかくなのでこれを機に「穂」という言い方にぜひ馴染んでみてくださいね。
その穂の部分をさらにズームしてみると・・
すごい、体の部位みたいに呼ぶんですね
これらは普通によく使う名前ばかりです。
・穂先(筆の先端部分。「毛先」ではありません、必ず「穂先」と呼びます)
・のど(のどはあまり呼んだことがないかも)
・腹(これもよく使います!筆の腹を使って〜、という具合です)
・腰(新しい筆の穂を全部使用することを「腰を折る」と言いますね)
1本の筆の部位をこんなふうに細かく見て、名前も知っていくと、少し親しみが湧いてきませんか?
筆の種類
筆の穂の主な原材料は
・羊毛:羊毛といっても羊ではなく山羊の毛。細くてやわらかい。墨の含みが良い。
・タヌキ毛:しなやかで弾力性がある。白と黒があり、白狸の方が柔軟性がある。
・イタチ毛:適度なかたさと弾力性があり、戻りが良く穂先がよくまとまる。(私の愛用している筆は100%イタチ毛を使用しています)
・馬毛:たてがみやお腹、尻尾あたりの毛など全身の毛が使用される。腰が強く長い毛が取れる。
・鹿毛:先端部分に弾力があり、柔らかく腰が強い。
・玉毛(猫の毛):腰が強く、弾力性があって繊細な線を引くのに適している。
などなど。
他にもいろんな獣毛で筆は作られます。
水墨画だけではなく書道や、化粧用の筆など幅広い用途があるからですね。
また、1本の筆は1種類の毛でのみ作られるのではなく、それぞれの特性を生かすために、いろいろな毛をミックスさせて作られることが多く、これを「兼毫」と言います。
水墨画の筆の選び方
さて、初心者の方でやりがちな失敗は、
「とりあえずテキトーに安い道具を揃えがち」
ということです。
これは、水墨画だけではなく何にでも言えることかもしれませんね。
・いつまで続くかわからないし・・・
・最初から良い道具を使う必要もないでしょ
・道具のことはわからないからとりあえず100均でいいや
と思ってしまうんですよね。
気持ちはわかるのですが、多くの初心者を見てきた私の経験でいうと、
「最初はけっこう肝心」です。
テキトーに選んで買ったものの、続けていくうちにやはり使いづらく、「買い直す」という方はけっこう多いです。
そうなると、かえって無駄使いをしたことになってしまうのでもったいないですよね。
最初から高級品を買え!といっているわけではありません。
100円ショップで購入OKなものもあります。
ですが筆はちょっと違うんです。
おもちゃの包丁でちゃんとした料理はできませんよね。
筆選びだけは、テキトーではいけません。
でも、ポイントをおさえればそんなに難しいことはないので大丈夫!
初心者の最初の1本は?
私が初めて水墨画を描く方におすすめしているのは、こちらです。
・長流 小サイズ(朱陽堂)
こちらは、穂の長さと厚みがちょうど良く、また価格も手頃かと思います。
サイズは小・中・大とあります。
原材料は、羊毛・鹿毛・馬毛など。
オールマイティに使える付立筆なので、参考にしてください。
線描きに対して、線を描かずに面を塗る描き方のことを「没骨」または「附立」と言います。
その附立法で描く際に適しているとされる筆が、「附立筆」と呼ばれているのですね。
附立筆は使いやすいので、これで線描きもできますよ!
没骨筆(附立筆)の特徴
・穂先が長く、毛並みがよく揃っている
・描いた時の弾力性があって復元力がある
(復元力とは、描き終わった時に、穂先の状態が元の状態に自然に戻る力)
・白狸毛、羊毛、イタチ毛、馬毛など
・筆の種類は「長流」「玉蘭」「如水」など
筆はどれくらい揃えたらよいか問題
初めは小・中サイズの筆が2本あれば十分です。
・線描き用(小サイズ)
・面描き用(中サイズ)
という風に分けると使いやすいかと思います。
線描き用は、穂先を使うので腰と弾力性のある硬めのものが良いでしょう。
面描き用は、彩色する時に、筆の腹を使うので、柔らかめの毛がおすすめです。
初心者の頃は2本くらいで大丈夫でしょう。
いや、私は大作を描きたいんだ!
とか
金に糸目はつけない、全種類揃えたいんだ〜
という方は、小・中と言わず、大きな筆もトライして見てください。
私も形から入るタイプなので、ついこれカッコイイ!で道具を買ってしまいがちなのですが、絵の場合はまず何を描くか、ということが決まってからそれに相応しい筆を選ぶのが良いでしょうね。
ユニークなハケや面白い筆など、まだ使っていないものがありますから、これはあまり真似しなくて良いかと思います!
水墨画の筆の使い方
水墨画で使用する筆は、繊細な獣毛を使って作られています。
ですので、丁寧に扱わないとすぐに穂(毛)が痛みます。
上の画像は、全く同じ筆3本の状態を比べたものです。
【左】新品でノリが固まっている状態
【真ん中】使用したあとまだ水で濡れている状態
【右】使用したあと乾燥させた状態
左は、新しい筆のキャップを外したもの。
穂はノリで固めてあるので、ピシーッととがった状態で、触るとペンのように硬いです。
また、穂先は最も重要な部分であり、この部分の一番長い毛を「命毛」と呼びます。
真ん中は、すでに使用したものですが、水に濡れた状態で穂先をきれいにまとめてあります。
この状態で乾燥させると・・・
右のようになります。
ボサボサの状態を見て、びっくりする方もおられますが、大丈夫。
ノリが取れた筆はこんな風にフワッと広がるのです。
筆の基本的な扱い方
【筆の使い始め】
書道のかな用筆などは、腰を全部おろさず使用しますが、それとは真逆に・・・
新しい筆を使う時は、まず穂(毛)を水でよく洗い、ノリをしっかり落としましょう。
水の入った容器のなかで腰をすべておろし、ジャバジャバと洗ってください。
指で穂を触ってみて「ぬるっ」とした感触があればまだノリがついた状態ですので、サラサラとするまで洗います。
【筆を使ったあと】
水できれいに洗って、穂の形を整え、乾燥させます。
それだけ!
水で洗うときは、墨や絵の具が残らないよう根元の腰の部分をよくすすいでくださいね。
ここに墨が残ったままになると、筆の傷みの原因に。
乾燥させる場合は、筆のお尻にヒモが付いているタイプだとぶら下げられますが、ヒモがないタイプなら、横に寝かせて干してもかまいません。
乾いたら、ペン立てのような入れ物に収納してOKです。
これはやっちゃダメ!筆が傷む原因3つ!
【筆が傷む原因その1】
水の中に浸けっぱなしで放置 ❌
生徒さんがやっているのを見かけますね〜たまに。
この状態を見かけたらすぐに、水入れの中から取り出します。
少し置くくらいなら大丈夫ですが、これをずっとやり続けていると筆を少しずつ傷めます。
穂を固めてある根元の部分にまで水が入る、を繰り返していると、いずれ穂がズボッと根元から抜ける原因になってしまいます!
筆を何本か使い分ける場合は、水入れで洗ったら出しておきましょう
【筆が傷む原因その2】
筆で直接顔彩を取る ❌
昔は私もやっていたのですが、今は顔彩を取る用に専用のナイロン筆を使っていて、生徒さんにも薦めています。
筆は絵を描くためのもので、顔彩をただ取るだけなら何でも良い訳ですからね。
ついめんどくさくて、やっちゃいがちなのですが続けているとやはり、穂が傷んできますので注意。
ナイロン筆を使うようになって、ストレスが減りました!
【筆が傷む原因その3】
使用した後に乾かさず、ほったらかし ❌
小学校の習字の時間に、よく道具にカビが生えた子がいましたよね。
そのレベルです。
筆巻に入れたまんまで、ひどいクセがついていたりすると可哀想!
手入れはちゃんとしましょう。
手入れといっても、使った筆をきれいに洗い、穂先を整えて乾かすだけです。
特別なことはありません。
筆は良いものになるほど高価です。
買うときに「高いなー」と思うはずなのに、ひどい扱いをして寿命を縮めるようなことがあっては本末転倒ですよね。
筆は、大切に扱えば、半永久的に活躍してくれる頼もしいパートナーなのです。
水墨画の筆を買える店
筆を店舗で買う
初心者の時の道具選びってとにかく難しいですよね。
種類がとーーっても多いし、価格もいろいろです。
特に筆。
重要なのはわかるけれど・・・
そこで、一度お店に足を運び、詳しい店員さんに相談するのがおすすめです。
その際、
・予算
・何に使うのか(水墨画か書道かで違います)
・水墨画ならどんな絵を描くのか
などなど、わかる範囲で良いのでこちらの希望を伝えると、それにふさわしい筆を選んでくれます。
↓画材屋さんの店舗リストはこちらです
筆をインターネットで買う
今や、水墨画の道具もインターネットで手軽に買える時代です。
お店で価格や種類、用途に合わせた筆がわかってきたら、インターネットで検索をかけてみてください。
Amazonや楽天でも買うことはできます。
有名デパートの文房具売り場でも、取り扱っていることがあります。
水墨画の筆についてよくある質問
筆についてよく受ける質問・疑問をまとめてみました。
参考にしてみてください。
新しい筆の穂先はどこまでおろしますか?
時々、聞く質問です。
【答え】
全部おろします。
新しい筆はノリで穂先を固めてありますので、水でよく洗ってノリを落とします。
その時に穂先だけではなく全部おろしておいて下さい。
指で穂をほぐすようにするとスムーズに洗えます。
そして、キャップはもう使わないので捨てて下さいね。
筆は何本揃えれば良いですか?
これは道具を全く持っていない・初めて筆を買う初心者の方から必ず受ける質問です。
【答え】
まずは2本くらいからスタートしましょう。
1本では不安です。
2本あると描き分けることができます。
初心者の時は、ちから加減がわからないことが多く、グッと紙に押し付けて描きがちです。
そうすると筆の穂(毛)先の消耗が激しくなるため、1本では物足りないですね。
といって、細い筆から大きなもの〜ハケに至るまで、前種類揃えなきゃ!てことは全然ないので、安心してください。
普段描くものは、たいてい同じ筆を使用するものです。
私もそうです。
大きな紙面をさーっと塗ったりするときは大きな筆を使いますが、いつも使用するわけではありません。
また、私はけっこう「ハケ好き💛」なのでいろいろサイズを取り揃えて使い分けたりしますが、これは個人の好みなので、自由なんですよ♪
基本的に線描き用と面描き用、という風に筆を分けて使えば良いですね。
だんだんと使い心地に慣れてくると、好みのタイプが出てくるかと思います。
書道の筆は使えますか?
これもよく受ける質問です。
書道経験がある方は書道用の筆を持っているので、それが使えたら買わずに済みますからね。
【答え】
しかしNOです。ごめんなさい。
書道の筆は、かな用の細い筆も漢字用の太い筆も使えません。
厳密に言えば、使えないことはないのですが「使いにくい」です。
書道で使う筆の穂(毛)の部分は、柔らかくて長いものが多いので、水墨画を描く時には不安定になって、扱いづらいというのが理由です。
描くものによっては大丈夫な場合もありますが、初心者は避けたほうがよいですね。
筆の穂先が(摩耗して)なくなったので捨てたほうがいいですか?
これは水墨画経験者から時々受ける質問です。
筆の穂(毛)先が消耗して細い線を描きづらくなったので、もう使えないかな?ということですね。
【答え】
捨てないでください!
まだまだ全然使えます。
筆は半永久的に使えるコスパの良い道具です。
・穂先がなくなって細い線が描けない
→その筆は「線描き」から「面描き」用に変えて使いましょう!
・穂先(毛の部分)が取れちゃった!
→スポッとかたまりで取れた場合は、接着すれば大丈夫です!
穂先がバラバラになってしまった場合は、残念ながら修復できないかもですね。
筆ペンでも描けますか?
長くレッスンに通っている方の中にも、ペンタイプの筆を使っているのを見かけたことがあります。
【答え】
時にはYES(描くものによる)
わたくしごとですが、普段メモを取ったりノートに記したりする時に筆ペンを愛用しています。
だから、というわけではないのですが、私は「筆ペンで描いても良い派」です!
どんな時にオッケーなのかというと、
小さいサイズの紙に描く場合
ですね!
当たり前ですが、筆ペンに入っているのは本物の墨ではなく黒いインクです。
そしてペンの穂先は獣毛ではなくて、ナイロンです。
なので、基本的に筆ペンで濃淡をつけたり繊細な表現はできません。
ただ、線描きで動物を描いたり、人物を描いたり、はっきりした形のあるものを描くには、さほど問題なく描けます。
まとめると、
筆ペンで描いてオッケーな場合というのは
小さめの紙(A4サイズまでくらい)にササッとイラストタッチで描くこと
だと言えます。
味わいのある筆タッチの線は、イラストや漫画でも人気で、和のテイストを表現するのによく見かけますよね!
あんなイメージですね。
私個人的には、水墨画というからには、インクを使った筆ペンなどけしからん!という風には思いません。
ぺんてるの筆ペンは本当に使いやすいので。
1つ注意点としては、墨と違ってにかわが入っていないので、にじみやすいということですね。
まとめ
今回は、水墨画の基本的な4つの道具「文房四宝」の中でも、とても大切な筆について紹介しました。
水墨画のレッスンでよく話すことですが、筆はお料理における包丁のようなものと思っていただけるとイメージしやすいかと思います。
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また、インターネットでのお買い物は便利なのですが、一度は画材屋さんで詳しく聞いてみると、いろいろ知ることができて参考になって面白いですよ!
あと、包丁も時々研がないと切れなくなるように、筆も手入れが悪いと穂先が傷みます。
使ったあとはちゃんと洗って干して、清潔に保管してくださいね!
良い筆を使って、楽しく描いていきましょうね♪
それでは、また。
こんにちは。
墨絵師のベベ・ロッカです。