こんにちは。
墨絵師のベベ・ロッカです。
水墨画表現で描く花の中でも、ひときわ美しく凛とした高貴さを感じる椿。
水墨画を始めたなら、一度は描いて欲しい椿。
水墨画で描くにふさわしい椿は、もちろん墨だけでも、鮮やかな赤を使っても、花の魅力を存分に引き出すことが可能なのです。
今回は
・椿の運筆
・椿をより上手く見せるためのコツ
の2つを紹介したいと思います。
特に、上手く見せるコツを取り入れることで、椿の完成度がより簡単にアップしますので、ぜひお見逃しなく!
動画もありますので、最後までじっくり見て頂けると幸いです。
水墨画で描く椿〜まずは動画で流れを見る〜
まずは、動画で全体の流れを見てみてください。(3分ほどです)
この難しそうな椿の花をどうやって描くのか。
では、パーツごとに順番に描いていきましょう!
水墨画で描く椿〜全てのパーツが重要
・墨(花芯部分:シベ、葉、茎、ガク線描き)
・洋紅(花びら)
・黄、濃黄(花芯部分:花粉)
・黄草(ガク全体の色)
椿の絵自体は珍しいものではなく、よく描かれる定番のテーマです。
しかし、表現方法や運筆の違いで、全く花の印象が変わりますので、注目して頂きたいですね。
では花の中心、花芯からスタートです!
椿〜①非常に大切な「花芯」
私の使用している顔彩はこちらです↓
【花芯(シベ)に使う色:墨】
実際の椿の花芯は、シベがカイワレダイコンのようにまっすぐで密集しています。
そのシベの部分を墨で線描きします。
さりげない部分ですが、実は椿の花の印象を左右するのが、この花芯の部分。
非常に大切なんですよ!
(理由と描き方のコツはのちほど紹介します)
5本くらいでOK。
椿〜②5弁の「花びら」
【花びらに使う色:洋紅】
ここから、花びらを描きます。
花びらの描き方は少し変わっていますよね。
5弁の花びら、全ての形が全く違うのがポイント。
描く順番も重要です。
どうでしょうか?
花芯を中心にして、筆をぐるりと囲むように花びらを描きました。
次に花芯の先にある「花粉」の部分を付け足しておきます。
【花芯(花粉)に使う色:黄、濃黄】
まず筆に「黄」を取って、「濃黄」を取り、そっと穂先を置きます。
椿~③基本形の「葉」
【葉に使う色:墨】
次に葉を描きます。
イチ、ニ、と2筆で葉の形をとります。
椿~④個性的な「つぼみ」
【つぼみに使う色:花の部分・洋紅、ガクの部分・墨と黄草】
つぼみは葉を描いた後に、少し見えている花の赤い部分から描きます。
赤い花を少し描いたら、下のガクの部分を描きます。
ガクは、大きめでウロコ状の形をしているのが特徴。
まず線描きをして、そのあと黄草で塗ります。
椿~⑤難しいのは普通の「枝」
最後に墨で、枝を描きます。
筆の穂先を立て細くして、葉の陰からスッと引きましょう。
こういう線描きは意外と難しいですが、力を抜いてくださいね。
水墨画で描く椿~さらに完成度を上げる!各パーツのポイント
椿は「花芯」で花の華やかさが決まる
シベの本数は少なめにシンプルに描き、余白部分を作る
→シンプルに描くことによって力強さを、余白は立体感を生む。
はじめに、表現方法によって花の印象は変わる、と言いました。
椿の場合は「花芯」がとても重要な部分です。
種類によっては、細長いものやふわっと幅広のものなど、花芯の個性も色々です。
私が描く椿は、シンプル イズ ベスト!
花芯はゴチャゴチャと描き込みすぎず、スッキリとさせることによって、椿の花の美しさを引き出します。
椿の「花びら」に使っている技法はコレ
穂先に濃いめの赤を取り、穂先は常に花芯のいちばん外側をに沿って順番に、囲むように動かす
→片ぼかし風の描き方により、真ん中にある花芯に立体感を与える。
さて、ちょっと独特な花の描き方について。
この方法は、「片ぼかし」という技法の応用です。
花芯の中心の方に穂先を向けて、筆のお尻をくるっと回転させるようにして、花びらを形どります。
最初に花芯部分を軽く線描きしますが、この「片ぼかし」応用で花びらを描くことによって、さらに花芯がクッキリと浮き上がり、立体感を増しますよ!
椿の「葉」はいろんな「葉」の基本の型!マスターして応用しよう
椿の葉はシンプルな形をしているので、葉の運筆の基本練習によく使われます。
イチ、ニ、の2筆で描くこの基本運筆をマスターできれば、さまざまな形の葉に応用できるので、とても便利でかつ重要な葉なのです。
練習する時は、がんばっていろんな方向の葉を描くようにしてみて下さいね!
(右向き、左向き、正面、など)
椿のつぼみ、意外と難しいけれどこの方法で一気にカンタンに!
椿を何回も描いている生徒さんでも、つぼみは苦手意識を持っている人が多いです。
なんとなくゴチャゴチャして見えるので、よくわからないんですよね。
そこで、私が考案した「椿のつぼみの描き方」を紹介します。
下の図を見て下さい。
①着物のエリを合わせます。(左、右)
②その下で帯をしめます。(やや丸く)
③そしてまわりをつなげ、全体に丸くしたら出来上がり!
赤い部分は、花びらがチラッと見えているところ。
その下にガクがありますが、ウロコ状に重なっていてわかりにくいのだと思います。
そこで、ゴチャゴチャ描かず、上図①〜③のようにカンタンにしてみました。
花びらの部分を「顔」で、ガクの部分は着物を着るとイメージしてみて下さいね。
めちゃめちゃカンタンですが、実際にこんな形をしているのですよ。
実はつぼみの「着物描法」は、元々は私自身が「描きにくいな」と思って、自分用に編み出した方法なのですが、これは簡単だなと思ってレッスンでも紹介するようになりました。
なので、普段からこの描き方、使っているんですよ!
つぼみ、描きにくくて苦手〜〜と悩んでいる人は、いちど試してみて下さいね。
椿の絵の完成度を上げる秘訣とは?!
花の近くにある葉は、花とピッタリくっつけて、スキマを空けない!
→本物の椿の雰囲気に近づくので、完成度がアップし、絵が上手く見える
絵を描くときに大切なことはたくさんありますが、その中でも私が重要だと考えているのは、「バランス」です。
バランス良く描くためには、1カ所の部分だけに集中しすぎてはいけません。
常に全体を見渡す余裕が必要なのですね。
そして、バランスよく描くことは、絵の完成度を上げることにもつながります。
椿の場合のバランスを考えた時にポイントとなるのは、ズバリ「葉」の位置。
椿の葉は、花のすぐ近くに、主張するようにくっついています。
横に張るような形で付いているのですが、これには理由があります。
椿は、木へんに春と書くように、春の花とされています。
しかし、椿が咲き始める3月はけっこうまだ寒い時期ですよね。
雪が降って椿に積もった写真など見たことがありませんか?
そんな厳しい冬の名残のシーズンで、寒さから少しでも花を守らないと!と葉は考えたのでしょう。
椿を観察すると、必ずつぼみを守るように、寄り添ってくっ付いている葉があります。
その葉は「霜除け葉」と呼ばれます。
日本人の感性ならではの風雅なネーミングではありませんか。
つぼみが開花した後も、葉は当然その位置のままなので、花の横にピッとくっ付いたように葉が付いているのです。
その様子が、まさに椿の特徴とも言えます。
椿は描くのが難しい花ではありますが、初心者が少しでも完成度を上げるために、私はいつもこの葉のバランスのことをお伝えするようにしています。
細かい部分をきれいに描くより、全体のバランスが取れている方が絵としては上手く見えますよ。
初心者の皆さんに「花と葉をくっつけて!」とアドバイスします。
最初はそこだけでも意識して描けば、かなり絵が上手に見えるんですよ!
水墨画で描く椿は和の花の女王
椿の種類はいくつある?
巨勢山の
つらつら椿
つらつらに
見つつ思はな
巨勢の春野を
(「万葉集』第1ー54 坂門入足)
椿の花は万葉集に歌われるほど、日本では古い時代から愛でられてきました。
品種改良されてたくさんの種類があり、日本と世界とを合わせて6,000種にも及ぶと言われていて、様々な名前が付けられています。
それらは観賞用として作られたもので、それと区別するために、一般的な椿の花全般のことを「薮椿」といいます。
薮椿はとてもシンプルな一重の花びらの椿です。
斑入りの椿はとてもゴージャスで、一重も八重も、いずれの椿も絵になりますね。
花芯はしべがみっしりと集合しています。
葉の様子も見て下さい。
花の横からピッと張るように付いていますね!
これが「霜除け葉」です。
椿の花が咲く時期は、冬の終わりから春にかけてのまだ寒いシーズンです。
この頃、美しく咲く椿の花を見ると、気持ちがピッとするような気がしますね。
季節を意識したテーマ選びについてはこちら↓
墨で描くか色を使うか?椿はどちらでしょうか?↓
椿の描き方いろいろ[動画あり]
べべ・ロッカの水墨画3分動画シリーズでは、全部で3種類の椿を描いています。
上記の赤い椿は没骨法という、線を使わず花びらを描く描法ですが、下の2つは線描きです。
3分動画なので非常にシンプルですが、葉の向きなどが違うので、それぞれ参考にしてみて下さいね。
絵を描いていたら・・・こんな時どうする?!
これは、運筆のアドバイスではないのですが・・・
今回の椿の動画の中で、ちょっと気になるところ、ありませんでしたか?
ケース①水滴でにじんじゃった!
まずココです。
紙に落ちた水滴のせいで、その上に描いた葉が一部にじんでいます。
こういう場合、どうするのが正解でしょうか?
水滴を避けて描けばいいんじゃない?
あるいは、紙が乾くのを待ってから描いてもいいですが・・
でも、このにじみが悪いわけではありません。
むしろ、私は「面白い」と思います。
描いた直後は水滴が見えているので、「それでこの葉は一部にじんでしまったのだな」とわかります。
でも、この絵が完全に乾いた後だと、「あれ?この葉のココ、ボワンとなってるね、どうなってるの?どうやったの?!これ?」と、逆に新鮮に思うに違いありません。
新しい技法かな?水墨画って不思議!
などなど、鑑賞する楽しさが増えるという点でも、これは特に失敗とはみなされないのです。
ケース②紙を汚しちゃった!
こちらの場合。
(右上には、ケース①の犯人の水滴が見えていますね!)
左下に赤い点が2つ飛んでいます。
これは、椿の花びらの1枚目を描いた時に、筆の勢いによって、絵の具がパッと散ったものです。
これは失敗でしょうか?
せっかくの余白に絵の具が飛んじゃったらショックかも・・
まず、これはそもそも失敗ではありません。
私は全く気になりません。
むしろ点々と飛んだ墨は、「ラッキードット」(幸運の点)と呼んでいるのです。
(名付け親は私です・・・べべ・ロッカ辞典)
和紙の種類によっては、紙面に点やシミのようなものが現れている場合もあります。
これはゴミや汚れではなく、紙の原料の一部が見えているだけなのですが、嫌がる人も多いですね。
同じく、筆の勢いで飛び散った墨や絵の具も「汚れ」とみなすならば、ケース②も、気にする人は気になるんだろうなあと思います。
「個人の好み」ということでしょう。
すべてのものを「生かす」という水墨画の考え方
こんな風に偶然のハプニングによって、思わぬ仕上がりになることが水墨画は非常に多いのです。
なので水墨画は、
「一発勝負」
「やり直しができないから難しい」
などと言われたりもするわけですね。
ですが、いずれも筆の元気なリズム、勢いがあるという証拠!!
素晴らしいことですよね。
また、確かにやり直しができない部分もありますが、生徒さんの絵の添削をする時は
花や実、葉っぱを増やしたり、
鳥のビジュアルを整形したり、
風景の奥行きを作って立体感を出したり・・
リノベーションやオペ、いろいろやります。
逆に、全く何もしない場合もあります。
みなさん、添削のことを「お直し」と言われていますね!
つまり、水墨画でも添削は可能なのです。
ただ大切なのは、全ての添削(お直し)は、その人の絵を「生かす」という考え方に基づいているということ。
添削は、あくまでも元の絵をより良く仕上げるためのものであって、お手本通りの型にはめることが目的ではありません。
絵は楽しむもの。
紙の上での出来事は、すべて作品の「個性」になる、と考えてもらえれば自信もつくし、もっと自由に楽しめるようになるはずです!
なので、偶然出来たラッキードットやボワンとした葉っぱも
「これ、ユニークで良いですね!」ということになります♪
水墨画で描く椿〜まとめ
①花芯
おろそかにせず、余白を作ってシンプルな線描きにすることが重要。
②花びら
1枚1枚を順番に花芯をぐるっと囲むように、片ぼかしの応用で。
③葉
バランスを考えて、花の近くの葉は花とのスキマを空けず密着させる。
④つぼみ
ガクはシンプルに、着物の描法を使えばカンタン。
⑤枝
なんということもない枝はけっこう難しい。力を抜いて描こう!
シンプルゆえの難しさもありますが、何度も描くうちにコツがつかめてきます。
さらに、今回お伝えした「ちょっとした工夫」(各パーツのポイント)で、より絵を上手く見せることもできますからね。
椿の花が描けるようになれば、絵のランクも一段アップしますよ。
あなたの絵の完成度が上がることを願っています!
それでは、また。
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