墨絵師のべべ・ロッカです。
「水墨画」といえば、多くの人の頭にまず浮かぶのは何だと思いますか?
これは、私の勝手な推測なんですが、遠からずというところではないでしょうか。
レトロなイメージもありますが、花や生きものと同様、墨で描く風景画というのはやはり人気。
花鳥などはっきりとした具象のテーマと違うのは、墨と水、ニジミやカスレを多用して「抽象画」的な味わいを存分に表現できるところ。
水墨画ならではの面白さともいえます。
「水墨画といえば、墨だけを使って描いた山水」
という多くの人の先入観を逆手にとって、「ザ・水墨画」的な風景画にチャレンジしてみましょう。
水墨画独自の面白い技法を使えば、初めてでも簡単に描くことができますよ!
目次
【水墨画の風景の描き方】まずは簡単なものからチャレンジしよう!
水墨画3分動画「滝を描く」をモデルに描いてみます。
水墨画3分動画「滝を描く」2分44秒
(音声解説はありませんが音が鳴ります♪)
まずは、↑動画をサラッと見てみてください。
流れをつかんだら、以下の順番でパートごとに詳しく解説をしていきますので参考にして下さい。
また、水墨画らしい表現のために、各パートで「技法」を使います。
技法の説明も一緒にしていきますのでお楽しみに。
使う色は墨のみです。
【水墨画の風景の描き方】①岩肌を描くー「片ぼかし法」
まず初めに左側の「岩肌」を描きます。
そうなんです。
この岩肌を描くために使う技法は「片暈(かたぼかし)法」。
線ではなく筆の面を使って描く方法。
その際に、片側が濃く、内側を淡墨にすることによって濃淡を作る。
文字で見るとなんのこっちゃという感じですね。
で、この片ぼかし法を使うためには、筆の穂先に濃い墨をつけて、筆を寝かせて腹を使うようにして描きます。
右利きだと、左側の物象にこの技法を使いたい場合、筆を回転させて持つ必要があります。
それだと描きにくいので、紙の方をひっくり返して、逆さまにします。
すると、描いたい岩肌の部分が右側になるので、筆を持つ手も自然で楽というわけです。
こんなふうに、時に紙をくるくる描きやすいように回転させることは、よくあることなんですよ。
軽い和紙なのでできる裏技ともいえますね。
さて、岩肌を描きますが、この時点で紙が逆さまになっていることをお忘れなく。
つまり、岩肌を下の方から上に向かって逆行して描いていくということ。
(実際に描くのは上から下ですね:ややこしいですが)
また「片ぼかし法」で描く場合には、墨の取り方もひと工夫いります。
最初に、筆全体に淡墨をサッとふくませ、次に穂先部分だけに、濃い墨を取ります。
これは「三墨(さんぼく)法」という墨の取り方の応用です。
起筆(紙に筆を置く、描き始め)の部分、力が入らないよう注意してださい。
あとは、スーッとカーブを描きます。
筆の穂先に濃い墨がついているので、「片ぼかし」の技法が効いています。
カスレによって、岩の雰囲気が出ましたね。
墨を追加して、次は下から上に(画面上では)向かって、サッと筆を動かせます。
最初に出たカスレは生かしたいので、塗りつぶさないよう軽く。
そのまま、筆を止めずに軽くサーッと上へフェイドアウト。
岩肌ができたら、紙を元に戻します。
紙をひっくり返し、元の正面に戻しました。
左側に岩肌の部分ができました。
では、次は滝の水の部分です。
【水墨画の風景の描き方】②滝の水を描くー「渇筆(かっぴつ)法」
水墨画の表現方法のひとつとして、「描かずして描く」というものがあります。
時に、「余白の美」と呼ばれる特徴的な技法です。
紙の白を残し、周りを塗ることで、自然と白い部分を物象とみなすことができる描法です。
今回の場合は、滝の水の部分がそれに当たり、水を描かずして描くことができます。
ただ、少し補助線や濃淡をつけることで、さまざまな水の状態を表現することもできます。
白いまま残すか、少し手を加えるかはその時々で工夫すれば良いですね。
今回は、淡墨で少し水の表現を加えます。
水で薄めた淡墨を筆に取り、あらかじめ描いた岩肌のカーブに沿って、サッと筆を動かします。
この時、水分の多すぎる淡墨だと、紙の上に筆を置いた時ににじみが出てしまいます。
滝といえば、ものすごい勢いで流れ落ちる水の様子を想像しますよね。
にじみを作ると、優しい雰囲気が出るので、滝のイメージとはかけ離れてしまいます。
ですので、ここは「渇筆(かっぴつ)法」という技法で、水を描きます。
文字通り、渇いた筆の状態で、墨を少量取り、筆をかすれさせるようにして描く技法。
筆を皿にぎゅっと押し付けるようにねじり、穂先を割れた状態にしてから描くとカサカサと渇いた表現ができる。
墨は水で薄めるのですが、少しずつ皿に移して、シャバシャバにならないように調節します。
そして、筆の水分も極力タオルなどで取って、少量の淡墨を取り、サッと描きます。
本来の「渇筆(かっぴつ)法」では、ごつごつした岩肌とか、獣の体毛とか、バサバサにした筆の穂を利用した表現に活躍します。
今回の滝の水ではそこまでバサバサにしておらず、軽い感じですね。
2度ほど重ねているので、多少柔らかさも出ています。
少し岩肌の上の部分に墨を足しておきます。
あまり濃く塗らないよう注意です。
次は、樹木の部分を描きます。↓
【水墨画の風景の描き方】③樹木-1を描くー「破墨(はぼく)法」
ここは、樹木の葉の部分を省略した形で表現していますので、筆の腹を使って紙の上をすべるように軽く軽く。
これは、「破墨(はぼく)法」という描き方のベースになる1回目の部分です。
平たくいうと、薄い墨から始めて→濃い墨を重ねる描き方。
描く物象によって墨の加減が変わるが、濃淡によって物の立体感を表現したりする。
↑2回目の墨を重ねます。
↑3回目。だいぶ濃いめになりました。
下の墨が濡れている状態で重ねると、ジュワッとしたにじみで葉の濃淡が現れることで、奥深さが表現できます。
それが、破墨の技法です。
同じように、滝の上に突き出た枝の葉の部分も描いていきます。
この時、樹木1の木の部分も描いておきます。
【水墨画の風景の描き方】④樹木-2を描くー「破墨(はぼく)法」
では、樹木2の部分を仕上げていきましょう。
同じ要領で、墨を3段階に分けて少しずつ濃くしていきます。
さて、これで滝の完成です!
今日のメインは、破墨(はぼく)法を用いた、墨の濃淡表現でした。
それぞれ、墨を重ねた部分をもう1度見てみます。
【水墨画の風景の描き方】難しい名前だけどとても役に立つ技法
水墨画って、技法の名前がややこしくてわかりにくいなあ・・・って思いませんか?
わかります。
私だって普段教室で
渇筆(かっぴつ)に注意してください!
キリッッ
とか絶対言いませんね〜。
これらの技法は、数学の公式のようなものだと思ってください。
公式を使うことで、理屈はわからなくても、計算がとても楽に解けます。
少し違うのは、数学の公式がしょっちゅう変わることはないけれど、ベースの技法は、人によってアレンジされて進化することはあります。
なので、少〜し堅苦しさがあるかもしれませんが(読めない漢字が多すぎてイラっとしますが)、便利なものは使ったほうがいいですよね。
ぼちぼち気楽にとらえて頂ければと思います。
それで十分です。
感覚で慣れた方が絶対上達も早いです!
逆に、慣れて覚えてしまえば、ご自身の作品を説明する時に専門用語をバリバリに使って、カッコよく決められるかもしれませんね。
【水墨画の風景の描き方】注意するところとポイント
風景画は、人気です。
が、弱点がひとつあります。
それは、絵を通して何かを伝えるのが難しいということ。
これは、見る側からするとメッセージを受け取りにくい種類のテーマであるということです。
絵の中にどんなメッセージや想いを込めるか、どう伝えたいのか、というのは、非常に大切な作品の命となるものです。
これは花や鳥や動物、人物など全てのテーマに共通することでもあります。
顔のある生きものがテーマである場合、その点強いのです。
鳥にしても、人間にしても、顔の表情や体の動きなどに想いを込めることができるし、動かない花だって、美しさや生命力を伝えることが可能です。
ざっくりいえば、わかりやすいんですね。
ですが風景は、山、海、森、あるいは家や街並みなど、だいたい大きなものを描くことが多いですよね。
そうすると、ブワーッと視点が広がり、何がメインなのか、どこをポイントに見れば良いのかが曖昧になってきやすいのです。
無機質な感じになってしまいがちです。
墨の絵でも西洋画のようなスタイルで細部までキッチリ描く人もいるし、建物や乗り物などめちゃめちゃ細かく描く技術が優れている人もたくさんいます。
そして、見る側の感想と言えば
とか、絵のテクニックの方に集中しがちなのではないかなあと思います。
(私はそれが見る側の楽しみのひとつでもありますが。)
私が思う、風景画の難しさはそこです。
描くのは面白いのだけれど、さて「何をどう伝えるか」。
写真でもそうですね。
風光明媚で素晴らしくキレイな場所だけど、写真に撮ってあとで見ても「あれ・・・こんな感じだったっけ」「いや、もっとほんとにすっごいキレイだったよ!」みたいな何割かマイナスになるような感じ。
犬や猫だと、可愛さとか面白さとか、飼い主の愛情とかがもっと簡単に伝わるのに。
いっそ、「ナントカ庭園」とか「富士山」とか、有名な場所であれば
「行ったことがある」
「懐かしい」
という、見る側の共感を生みやすいかもしれませんね。
あと、風景画の場合は、あれもこれもとたくさん詰め込みすぎてよくわからない感じになることも多いので、絵にする場合はポイントとなるメインの部分を決めてから、構図を考えた方が良いです!
【水墨画の風景の描き方】最後に。風景画の魅力と面白さ!
風景画(今回は滝)の描き方ポイントまとめです。
・濃淡を使って描くには便利な技法を使う
・水の表現は「白く残す」もあり、技法を使って「表現する」もあり
・カスレやにじみも生かそう
・たくさん描こうと欲張らず、伝えたいメインの部分を明確に
風景画を描く際には、ちょっと難しそうな名前だけど使える技法が水墨画にはたくさんあります。
墨だけでも良いし、色を使ってもまた違う雰囲気を楽しめます。
ちなみに技法は、どちらの場合にも使えます。
先ほどは風景画の表現の難しい部分を述べましたが、私は描けば描くほど、水墨画の風景の面白さはハマるものだなと感じています。
例えば、今回の「破墨(はぼく)法」は私のお気に入りの技法のひとつで、きっちりと形を作らずに墨を重ねていくことで、立体を作るという楽しさが好きなのです。
水墨画は、というか日本の絵画表現の中には、西洋画のように光と影を表すという考え方がありませんでした。
現在では、さまざまな技法やスタイルが取り入れられて、「こうである」という狭い考え方に固執することはないと思うのですが、それでも、根本的に描法が全然違うものではあります。
その技法やスタイルの奥には、日本人ならではの考え方や美の捉え方があり、それらが芸術という分野にも強く影響して、独特の日本の水墨画表現を生み出したのではないかなと思います。
私も、古来からの水墨画の技法をベースにしつつ、好きなテーマを表現したり、違ったジャンルの描法なども試していきたいと考えています。
あなたにもぜひ、水墨画表現で楽しめる風景画にチャレンジして頂きたいです!
技法を使って楽しくね!
それでは、また。
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