水墨画の基本テーマとして最初にあげられるもののひとつに、「四君子」があります。
四君子とは、蘭、竹、菊、梅のことを指します。
中国では、これら4つの草花が持つ美しさと気品は、植物界の「君子」として讃えられてきました。
またそれぞれ四季を代表する植物であることと、描いた時の線や面の表現の中に、重要な運筆が含まれていることから、水墨画の基本技法を学ぶ画題としても「四君子」は定番となっています。
・春=蘭
・夏=竹
・秋=菊
・冬=梅
四君子「菊」の描き方はこちら↓
今回は、四君子の中の、「梅」を一緒に描いていきましょう!
目次
水墨画の梅を描くときの注意点とうまく見せるコツ
いつも「絵が上手くなりたい」という人に向けて考えることがあります。
絵が上手くなるには、
時間をかけてコツコツ練習したり・・
努力が必要なんですよね?
わかってるよ・・・でも、しんどい努力はあまりしたくないのよ。
ただ、もっと上手く描けたら
もっと楽しいだろうな〜と思ってしまうんです。
そんな風に、思う人が多いのではないかな・・と。
なのでこのブログでは、地道な練習とは別に、できるだけ時間をかけずに上手く見せるコツをお伝えしています。
それも技術のひとつですからね。
コツも押さえつつ、ゆっくり上達していけば良いのかな、と思っています。
梅も、もちろんコツがあります!
運筆とは違いすぐできるものばかりなので、よかったら試してみてください。
次の6つの型を使った方法です。
梅の花は「6つの型」とバランスで描き分ければ簡単!
まず、最初にこちらからやっちゃいましょう。
梅の花を簡単に描くコツを紹介します。
梅の花は枝にくっつくようにして咲くのが特徴です。
そして、あちこちの方向に向いてくっついています。
なので、花の変化をつけることがポイント。
梅の花の変化を6つの型にまとめたのが下の図です。
①の型ー花がきれいに開花したもの(5枚)
②の型ー開花した状態をナナメに見たもの(4枚で表現)
③の型ー開花した状態を横から見たもの
④の型ーつぼみが少し咲きかけたもの
⑤の型ーつぼみ
⑥の型ー枝の向こう側の花の状態
花の形を難しくとらえるのではなく、素直にこの型をそのまま描けば簡単です。
ひとつ工夫を加えるとすれば、花の向きです。
横向き、下向きなどいろんな方向にくっついて咲きますので、正面だけではなくあらゆる角度で描くと完璧です。
下向きは描きにくいので、紙をくるっと回せばOKです。
花の形がきれいに描けなくても大丈夫。
大事なのはバランスです。
私も梅を描く際には、これらを組み合わせて使っています。
とても便利ですよ!
では、実際に描いてみましょう。
今回は水墨画3分動画「紅梅を描く」を使って、「枝」と「花」のパートに分けて解説していきたいと思います。
水墨画の梅の描き方
梅は、花はもちろんのこと、どっしりとした幹や複雑にからむ枝など、木の部分も魅力です。
日本各地では盆梅展が開催されています。
時間をかけて育て、複雑にからむ枝ぶりを観賞用として楽しむ習慣がありますよね。
水墨画の梅の描き方「枝」
まずスタートは枝からです。
【使う色】墨
太い枝を描く場合は、大きめの筆を使います。
側筆で、筆の腹を使います。
筆を立てると描きにくいので、寝かせるようにして、十分に筆の太さを使って描きます。
枝の始まりは左端ですが、あえて少し右側からスタートしたのは、次の理由からです。
・この場合、左へ描くスタイルが筆を持つ手が楽である
・左へはらうように描くことで、カスレを出しやすい↓
【枝を上手く見せるポイント その1】
・カスレを出す
筆の腹で描くと、筆の穂が乱れてカスレが出やすいです。
カスレが出たらラッキーと思って、そのままガッと思い切りよく描き切りましょう。
続いて、右に枝をつないで描きます。
梅の枝は先端へ向かうほど、細くなっていきます。
なので、一気に描き切るのではなく、途中で筆を止めてもOKです。
筆をところどころで止めて、そこから筆を描きやすい方向へ持ち替えて、少しずつ細くして行きます。
だいぶ細くなってきました。
細くなるにしたがって、直筆(筆を立てる)で描きます。
【枝を上手く見せるポイント その2】
・必ず最低1カ所、枝をクロスさせる
細い枝を描く際に、最初に描いた枝とクロスさせる部分を作ります。
梅は枝がどんどん上に向かって伸びますが、花は、短い枝に咲きます。
長い枝を切ってやらないと、花にちゃんと日光が当たらないので育ちにくくなってしまいます。
そこで、バシバシ剪定をするのですが、切ったらまた新しい枝が生えてきて、それらの枝がいろんな方向へ向かって伸びようとします。
その特徴を活かすため、絵にもクロスした枝を描くのです。
梅の枝が完成しました。
これが梅の花を描くための土台となります。
水墨画の梅の描き方「花」
では、花を描いてきましょう。
使用しているのは、こちらの顔彩の色です。↓
【使用する色】
・花びら:洋紅(赤色)
・シベ、ガク:墨または煤竹(こげ茶色)
・花粉:黄、濃黄(オレンジ色)
筆の穂先を使います。
そのまま置くと、筆の形と同じで細くなってしまうので、やや横に動かして丸みを作ります。
ゴージャスにしようと、花をたくさん描きすぎるのはよくありません。
満開の梅の花ってすごいですよね
もちろん、すごくてきれいです。
ですが、それを絵にする場合は、さらによく見せる(魅せる)ためのひと工夫。
水墨画の場合は、「シンプルさ」が絵の持つ魅力のひとつです。
梅の花の特徴を生かし、混み合って咲いているところを中心に、あとはつぼみをまばらに描くとバランスが良いですよ。
あえて満開にしないのがポイント。
花びらが描けたら、シベを足します。
シベは、オシベ、メシベの部分のことです。
梅の花のシベはワサワサと量も多いのですが、これもそのまんま大量に描きすぎると、やや品がなくなってしまいます。
ですので、適量を心がけシンプルにいきましょう。
シベの次は、ガクです。
梅の花は枝に直接くっついて咲くタイプですので、ガクはしっかりしています。
なので、しっかり描きます。
ここをしっかり描くことで、梅の花の特徴が生かされます。
最後に、花粉の部分を描きます。
ここは、穂先を使って、チョン、チョンと軽く点描(てんびょう)でいきましょう。
梅の花を描くときにやりがちな失敗3つ
梅の花で見かけるあれっ?というパターン(失敗)があります。
中でもこれはよく見るかな、という3つを選びました。
NG①ー花びらが離れてバラバラに!
梅は通常5弁で1つの花なのですが、ひとつひとつの丸を描いていく時にバラバラになってしまうパターン。
これを防ぐためには、1つ描いたら次の花びらは、最初の花びらにくっつけるようにして詰め気味で描くと大丈夫です。
NG②ー花びらが細長くなってしまう!
これでは、梅ではなく違う花になってしまいます。
花びらはやや大袈裟に描いてみましたが、つぼみが細長いパターンはよく見かけます。
梅のつぼみは丸っこく描くのが基本です。
NG③ー丸がテキトーに並びすぎて花のまとまりがない!
枝にくっつけて描くので、花びらのバランスがとりにくいため、こうなってしまいがちです。
なんとなく丸を適当に並べた!という感じで、これでは花っぽく見えません。
ひとつひとつの花を意識して描きましょう。
以上、失敗パターンでした。
さてここからは、梅について写真を交えながら紹介していきますね。
【水墨画花を描く】梅は「季節感」を表す定番のテーマ
水墨画「四君子」の1つ、梅は冬を表す花。
1月下旬から2月の寒い季節が見頃です。
季節がはっきりとしているため、冬を表す植物として水墨画でも定番のテーマとなっています。
梅の木には、メジロやスズメなど鳥も集まってくるので、それら生きものと組み合わせた構図も、よく見かける種類の絵ではないでしょうか。
梅の種類と魅力について〜季節の画像で紹介
梅の花の色は、白、赤、ピンクです。
大きく分けて種類も、上に向かって枝が伸びるタイプと、枝が下にしだれるタイプがあります。
また、梅は1本の木には同じ色の(白梅なら白のみ)花しか咲きませんが、「思いのまま」という種類の梅の木だけは別で、1つの木に、赤・白・ピンクが混在して咲きます。
数は多くありませんが、梅林などではたまに見かけます。
梅の花はとても香りが良くて、私は大好きです。
それも押し付けがましいような強烈な匂いではなく、スーンと上品で可憐な芳香を放ちます。
開花情報でよく、『今、〜部(3部とか5部とか)咲きです』などと言われますが、5部咲きくらいまでが好きですね。
これから咲くよ、というつぼみがたくさんプチプチプチとついている様子は、とても可愛らしいし絵になります。
それと、梅は冬だけでなく、1年中楽しめる植物でもあります。
冬が花の開花シーズンで、梅林にも多くの人が訪れ賑わいを見せますが、花が終わった後、緑の葉が出て、梅の実がなる頃もさわやかで素敵です。
夏の梅の様子
秋の梅の様子
秋になると葉が紅葉します。
その頃の梅林は誰も来なくて寂しげなのですが、がらんとした場所ではゆっくりと木の枝ぶりを楽しむことができます。
冬の梅の様子
そして花芽が冬の開花に向けて準備を始める・・・。
なんやかんやで、私は1年中梅林を訪れています。
植物も生きものですから、花が咲くシーズンだけがその植物のピークではないのです。
季節を通して観察してみると、発見や驚きがあって、なかなか楽しいですよ!
「梅にウグイス」ってよく聞くけど、実はあの鳥の間違いだった?
ちなみに、「梅にウグイス」という言葉、よく耳にする言葉ですよね。
しかし実際に、梅の木にやってくるのは違う鳥。
実は・・・「メジロ」なんです。
メジロはカップルで行動する鳥で、12月末から3月くらいにかけて、2羽で行動している姿がちらほら見られます。
彼らは花の蜜を吸うので、年末はサザンカの花、年が明けると梅の花、そして春になると桜へと、忙しくあちらこちらへ飛び回っています。
ウグイスとメジロはよく混同しやすい鳥なんです。
メジロは、目の周りに白いふちどりがあり、羽の色はきれいなグリーン。
一方、ウグイスは、メジロに比べるとだいぶ地味な色合いです。
ただ、ウグイスは、あのホーホケキョというおなじみの美声でよく知られているので、知名度は高いですよね。
メジロは寒い時期見かけることが多いですが、ウグイスは声はすれども姿を見ることがありません。
ウグイスは今どきの、顔出しをしない人気アーティストみたいだな、と思います。
最後に。「四君子」のひとつである梅はいろんな魅力をもつ花
梅の花の描き方ポイントまとめです。
・まずは太い枝からだんだん細く
・枝はカスレが出るとラッキー
・枝は最低1カ所はクロスする部分を作る
・後から花を描くためにところどころ空白をあけておく
・花は6つの型を組みあせて描けばらくらく
・欲張って花をたくさん描きすぎない
水墨画の「四君子」のひとつである梅は、毎年冬の手本の定番となっています。
四君子「竹」の描き方はこちら↓
梅の絵はみんなに愛される定番でもありますが、描くのはちょっと難しい・・という声をよく聞きます。
でも、大丈夫。
梅はとてもシンプルなテーマです。
今回紹介した6つの型を使えば、悩むことなくスムーズに描けると思います。
ぜひ描いてみてください!
それでは、また。
こんにちは。
墨絵師のベベ・ロッカです。