こんにちは。
墨絵師のべべ・ロッカです。
水墨画といえば、独特の名前を持つ技法がたくさんあるんです。
水墨画の技法って、そんなにいろいろあるんですか?
いろんな技法がありますよ!
ということで、今回は、水墨画の技法について紹介していきたいと思います。
・水墨画の技法について知りたい
・これから水墨画を学びたい
・水墨画を始めたばかりの初心者
という方におすすめです。
楽しみながら体験できる水墨画ならではの技法、ぜひトライしてみてくださいね。
目次
【水墨画の技法】はじめに
「水墨画の技法」とは、どんなものでしょう?
水墨画で使う技法は、1,000年以上もの昔から受け継がれてきた伝統的なものです。
筆・墨・和紙などの水墨画で使う道具の特性を生かした、独自の表現方法ですね。
技法の数は多いので、2パターンに分けてみました。
よく使う技法と特別な技法
・普段からよく使う便利な技法
・特別なものを描くときだけに使う技法
という具合ですね。
今回は私基準で、「これはあまり使わないな」というものはカットしました。
「普段からよく使う便利な技法」の方を中心に、詳しく解説していこうと思います。
せっかくの技法も、実際に使えてこそ意味があるもの。
では、どんな技法があるかまず見ていきましょう。
水墨画の技法一覧表
まずは、下記の一覧表をご覧ください。
・懸腕法
・提腕法
・枕腕法
・単鉤法
・双鉤法
・蔵鋒(直筆)
・露峰(側筆)
・逆筆
・鉤勒
・没骨
・三墨法
・たらしこみ法
・潑墨法
・破墨法
・積墨法
[筆の表現による技法]
・潤筆
・渇筆
・割筆
・片ぼかし
・点描/点苔
・吹き墨(ボカシ)
便利なものだけ・・と言った割にこんなにたくさん!?といきなり不安になるかもしれませんね。
技法を料理に例えてみる
多く感じるのも、もっともだと思います。
たくさんある理由は
「動きのひとつひとつに名前がついている」からですね。
私はよく、絵を描くことをお料理に例えて説明することがあります。
「お料理」と言えば、それだけでいろんな道具や作業工程がカンタンに想像できるからです。
調理器具もたくさん種類があるし、調理法にはすべて名前がついていますよね。
なので、「水墨画の技法」というと難しそうですが、お料理の調理法みたいなもの、とイメージしてもらえたら良いかなと思っています。
技法の名前は人に伝えるためのもの
こういった絵の技術は人から人へ継承されてゆくもの。
技法に細かく名前をつける理由は、よりカンタンに人に伝えやすくなるからでしょう。
水墨画技法の名前って漢字が難しく読みづらいですが、元々が中国から伝わったものなのでその名残というわけでしょうね。
ちなみに、名称はキッチリ覚える必要はないですよ!
私自身、知らず知らずに技法を使っていて、後から名前を知ったということがよくあります。
それでは、順番に様々な技法を紹介していきますね!
【水墨画の技法】腕の構え方
水墨画の技法は、描く前の所作から。
美しい所作からは美しい絵が生まれる、と私は考えます。
ポイント:この3種類の腕の構えは普段から必ず使う基本的なものです。
場合によって使い分けると、描くのがとてもラクになりますよ!
まずは筆を持つ構えの紹介からスタートしましょう!
①懸腕法(けんわんほう)
「懸腕法」とは、腕を机から離して浮かせた状態のこと。
腕を浮かせているので、大きな動きがしやすくなります。
逆に、安定感はなくなるので細かい動きは苦手です。
②提腕法(ていわんほう)
「提腕法」とは、手首から肘あたりを机につけた状態のこと。
手をつけることで安定感が生まれるので、細かいものを描くことができます。
逆に、大きな動きは苦手です。
ポイント:私はよくこの状態を「ペンで字を書くイメージで」と説明しています。
③枕腕法(ちんわんほう)
「枕腕法」とは、筆を持つ手と反対の手を机に置き、その上に筆を持つ方の手首を軽くのせた状態のこと。
片方の手を下に置くことによって、安定感を保ちつつ、提腕法ではできなかったタテの動きができるようになります。
手首のところが支点となっているため、あまり大きな動きはできません。
【水墨画の技法】筆の持ち方
お箸の持ち方があるように、筆にも持ち方があります。
微妙な違いですが、それぞれ紹介します。
①単鉤法(たんこうほう)
「単鉤法」とは、親指と人差し指だけを軸にして筆をもつ状態。
安定感がなさそうですが、とにかく軽く筆を持つことができるので、細かい点描などに向きます。
腕の構え方「「枕腕法」とのコンビで便利に使えます。
②双鉤法(そうこうほう)
「双鉤法」とは、親指と、人差し指・中指を軸にして筆をもつ状態。
「単鉤法」よりもグッと安定感が増すので、力強い動きができます。
ポイント:筆の持ち方(指の構え)に関しては、ペンを持つような感覚で良いかな、それほどこだわる必要はないかな、と思っています。
【水墨画の技法】基本の筆法
では、筆を使った技法にまいりましょう。
まずは、基本の直筆と側筆です。
↑画像の絵を見てください。
筆の穂(毛)の部分を「長方形」に例えました。
直筆(ちょくひつ)
筆をまっすぐ持って、長方形のタテの形(幅の狭い方)に動かします。
直筆は、基本的に「均一な線」を描きたい場合に使用します。
例えば、「木」でいうと、細い枝などです。
側筆(そくひつ)
次は、側筆です。
筆をやや寝かせるように持ち、長方形の幅の広い形の方向で筆を動かすので、先ほどより広い範囲で描けます。
側筆は、筆の腹を使って描くので、広い範囲を描きたい場合に使用します。
例えば、「木」でいうと、幹の部分です。
・筆の腹を使う
・筆の面を使う
逆筆(ぎゃくひつ)
利き腕が右手として、
線を描く場合「左から右へ」「上から下へ」の動きが、自然で楽ですよね。
文字を書く場合でも同じです。
逆筆は、その逆方向への動きです。
楽な方向と逆に動かすので、逆筆の方がちょっぴり描きづらいということになりますね。
(左利きの人の場合、これらの方角は反対になります)
下のように、1枚の葉で2通りの描き方をする場合もあります。
【水墨画の技法】2大技法
2大技法というとどんなスゴイ技が・・!と思ってしまいますが単純に
「線で描く」
「面で描く」
の2種類ありますってことですね。
例えば、同じ花を描くにしても、線と面では表現方法が代わり、それぞれのを良さを楽しむことができるのです。
鉤勒(こうろく)
「線で描く」ということです。
線で描いて彩色しない場合、「白」を表現することもできます。
没骨(もっこつ)
「面で描く」ということです。
アウトラインを線で描かず、直接筆の面を使って形を取ります。
【水墨画の技法】墨の表現
水墨画は墨を使います。
色情報がない状態では、墨の濃淡が命。
グラデーションで変化をつけることが大切なのですね。
でないと、美しさも味わいも感じられない、白黒のコピーみたいな単調な絵になってしまいます。
濃淡を作るための技法を紹介します。
①三墨法(さんぼくほう)
「三墨法」とは・・・水墨画の基本であり、それを使うことによって、一筆で濃淡を作ることができる、ちょっぴりマジックのような技法。
何度も墨を塗る重ねるのではなく、一筆で濃淡を作りたい場合に、威力を発揮します。
適当に硯から墨をとって描いても、美しい濃淡は作れません。
最初に筆に含ませる水加減は、実際に試して調節してみてください。
水・淡墨・濃墨と筆に含ませて、筆の中でグラデーションを作ります。
①まずキレイな水でよく筆を洗う。(タオルで適度に拭く)
②筆の穂先3分の2ほどまで淡墨をつける。
③筆の穂先に濃墨をつける。
④調墨する。(とき皿の上で、筆の穂先をやや押し付けるように左右に揺らしなじませる)
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シンプルに、
薄い墨を先につけて、濃い墨をその後に穂先に含ませるだけです。
最後に調墨して筆をなじませるようにすると、最初に筆に含んであった水が下地となり、濃さの違う墨の仲介をしてくれて、筆の中でじわりとグラデーションの状態を作ってくれるのです。
②たらしこみ法
たらしこみ法とは・・水がにじまない紙に墨をのせると、描かれた墨は吸収されずに、紙の上で泳いだようにたまり、とどまります。
そして時間をかけて乾いていくのですが、その際に面白い独特のくまどりを作ります。
それがたらしこみです。
実際に、普通の画用紙(ケント紙)を使って、たらしこみをした上の画像を見てみてください。
たらしこみ法は、俵屋宗達や尾形光琳によって創案された、装飾的な技法です。
どんな模様になるか乾くまではわからない、という偶然の面白さ・抽象画的要素も楽しめます。
「水がにじまない紙に描く」ということ。
(あるいはドーサ液という防水効果のある液体を生の和紙に使用して、にじまないような状態にしても、効果は同じです)
↓「たらしこみ」で有名な俵屋宗達の作品はこちらで見られます
③潑墨法(はつぼくほう)
「潑墨法」とは・・ものの形をはっきり線描きしたり描写せず、筆で遊ぶように対象物を描く技法で、偶然にできた形を自然の山などに見たてるという。
潑墨法は、水墨画の技法を語る際に必ず登場するのですが、安易に紹介するのはちょっぴり畏れ多い気持ちもありますね。
抽象画的要素も強いです。
この技法に関しては、ただひたすら運筆を練習するだけではなく、大胆でのびのびした遊び心が大切なのだと思っています。
精神絵画とも言われる水墨画ならではかもしれません。
対象物を特に決めずに、まずは自由に描くところから始めてみるのをおすすめします。
水墨画らしい、水や墨のにじみ、かすれを手応えとして感じることを楽しんでみてください。
雪舟の作品に、登場しますよ!↓
④破墨法(はぼくほう)
「破墨法」とは・・・淡墨の上に濃い墨を重ねて、墨の変化による質感、立体感などを表現する技法。
先に描いた淡い墨の調子を、後から濃い墨で「破る」という意味のようですね。
こちら「滝の描き方」の記事に破墨がでてきます。⇩
④積墨法(せきぼくほう)
「積墨法」とは・・・淡墨を少しずつ少しずつ重ねていく技法。
立体感や質感を表すことができます。
私の例で言いますと、作品は動物を描くことが多いのですが、細かい毛や肌の感じを出すために、この技法をよく使います。
和紙はあえてにじむ麻紙などを使って、水を控えめにじっくり重ねていきます。
↓こちらの子鬼は私の墨絵キャラですが、輪郭線を描かず、指から頭の毛まで全て淡墨を重ねて描いています。
時間はかかりますが、少しずつ立体的に出来上がってゆくという過程は楽しいです!
【水墨画の技法】筆の表現
次は、筆を使ったいろんな表現方法による技です。
①潤筆(じゅんぴつ)
「潤筆」とは・・筆に水や墨を含ませて、自然なにじみをコントロールしながら描く技法。
水分が多いと優しいイメージが作れます。
にじみを自然に出すために、運筆はややゆっくりめがいいですね。
②渇筆(かっぴつ)
「渇筆」とは・・筆の水分をなるべく少なくして、墨や顔彩も少なめに取り、カスレが出るよう紙の上をこするように描く技法。
カスレを作るには勢いが大切。
筆はあまり紙に押し付けすぎず、空気を含ませるようにしてリズムよく!
渇筆も非常によく使う技法です。
③割筆(わりふで)
「割筆」とは・・水分を少なくした筆の穂先を無造作にボサボサに乱して、その乱れた穂先で描く技法。
ボサボサとした穂先を利用して、草や、動物の毛並みなどを描きます。
割筆、よく使います!
④片ぼかし
「片ぼかし」とは・・物象を描くときに、線で描かず、その形の外側を濃くしたり、内側を淡墨でぼかしながら描く技法。
(片方だけぼかすので、片ぼかし)
片ぼかしは、風景でよく使いますね!
椿の描法も、片ぼかしを使って花芯を立体的に表現しています。
⑤点描/点苔(てんびょう/てんたい)
・「点描」とは・・筆を立てて穂先を細くまとめ、細かい点を打ちながらまとめるようにして描く技法。
点描は、西洋画でも見られる描法ですね。
日本では、伊藤若冲が水墨画で点描を用いた作品を作っています。
・「点苔」とは・・点描ほど緻密ではなく、大胆に筆の穂先を紙に落とすようなタッチで描く技法。
「点描」が小さな点々だけで細密に面や立体感を表現していくのに対して、「点苔」は、キレイな点を描くのが目的ではなく、実際に木の苔を表していたり、絵の中で大胆なアクセントになったりと、意味合いが違ってきます。
点苔は便利で非常によく使います!
⑥吹墨(ふきずみ)
吹き墨とは・・専用の筆を使った「ボカシ」のこと。
通常使う筆を使わずに表現する方法なので、「邪道である」と捉えられる場合もありますね。
ただこれもけっこう難しいし、絵の表現の幅を広げてくれるので、立派な技法のひとつであると私は考えています。
古来の吹墨とは、
墨を口に含んで紙などに吹き付ける方法だったそうですね・・
ええー
ブーッ!!って墨を?大道芸人?!
お口がイカスミのようになりそうですね・・
一種のパフォーマンス的意味合いもあったのかもしれません。
あらゆる表現方法は、時代を経て進化したり改良したりして、新しく作られていくものだと思います。
現代版の吹墨(ボカシ)は、実際とてもよく使いますよ!
ボカシについては、こちらで詳しく解説しています↓
【水墨画の技法】まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、さまざまな技法を紹介しました。
最初にお伝えしたとおり、私が普段使っているなじみのあるものばかり。
実際はもっと他にもありますが、今回紹介したもので十分水墨画を体感できますよ!
↓無料ビデオ講座では、様々な技法を実演しています!
絵を描くことは、お料理のようなもの。
筆は、包丁。
墨や顔彩は、食材。
濃淡の仕込みは、下味の仕込み。
水加減は、塩加減。
筆の技法は、包丁の使用法。
様々な技法は、様々な調理法。
・・・・・などなど。
色々悩みながら試していたら、偶然それが技法だった・・・という発見もあるかもしれませんね。
難しくとらえずに、気軽に筆を取っていただけたら嬉しいです。
それでは、また。
知人が地区の文化祭に水墨画を展示しているとのことで、
拝見してまいりました。
一点は墨のみの作品、もう一点は色が入った作品でした
水墨って何だろう?との思いで貴ホームページを開きました
とても奥深いことが少し感じ取れました
ありがとうございました
ありがとうございます。
水墨画に興味を持っていただけると
とても嬉しいです。